だとしたら?・1
「動かないでよく見せて」
「それは難しい。だって、くすぐったい」
窓のそばで、フレイヤがクリスティナの頬を両手で挟み角度をつけて瞳の色を入念に確かめている。
耳や顎にかかる指を意識すればするほど、クリスティナはくすぐったくて仕方ない。
それで身動きしてフレイヤに止められる。
「朱色が差していると言えば言えなくもない……か」
「うふっ。朱色があると遠くがよく見えるとかがあるの?」
「そういう実用性はないんじゃないかしら」
「それなら、何色でもいいと思う」
ふたりで、きゃっきゃとしているところに、レイが帰って来た。
「外まで楽しそうな声が聞こえましたよ。俺がいない時のほうが楽しそうですね」
なんだか拗ねたような言い方。フレイヤとクリスティナは顔を見合わせた。
クリスティナが代表して質問する。
「レイも入れて欲しいの?」
「『欲しい』って言ったら、入れてくれるのか?」
なんだかご機嫌が悪い?
「お腹が空いたの?」
「クリスと一緒にしないでくれ」
渋い顔をしてから、いつもの快活な笑みを浮かべる。どうやら仲間外れが嫌だったようだ。
瞳の話はそれで終わりになった。
フレイヤには、レイの不機嫌の理由に心当たりがあった。
『旧マクギリスの城砦での劇の上演に、ぜひともクリスティナちゃんを連れて行きたい。いい顔をしないマードック様をなんとか説得してくれない?』
イヴリンからクリスティナ経由でメッセージカードが届いた。
まず尊重すべきは本人の意向だと思い確認したところ「行ってみたい気持ちがある」と言う。
奪った奪われたは別として、現在良好な治安が保たれているのなら行ってもいいのではないか。安定がいつまでも続くとは限らないのだから。
それがフレイヤの考えだけれど、口にすればレイに冷笑されそうな気がした。彼の冷笑など一度も見たことはないのに。
先日の園遊会、子供劇の観客のなかシンシア・マクギリスらしき女の子を連れていたのがアガラス家のご子息だとして。
小さな女の子がひとりで戦乱を逃げのびアガラス家を頼って門を叩いた、とは考えにくい。
誰が連れて行ったか。まず思いつくのは、隠し通路を使いシンシア嬢と共に城砦を出たクリスティナの実母メイジーだ。
クリスティナの実父について知るには、メイジーに聞くのが早い。本当のことを答えてくれるかどうかは不明だが。
そもそもフレイヤには会う手立てがない。誰に相談すればいいのだろう。
「――ジョナサン」
彼ならどうしただろう。と言うより、どうにかして欲しい。
「ダー君にお手紙を持たせるって言ったのに。うそつき」
呼ぶよりそしれ、とはよく言ったもの。
「ダーはうそつきじゃないよ、もとひ。ダーは良い子だよ」
くるりんと回りながら突然宙に現れた金髪の愛くるしい男の子が、頬を膨らませた。
「ダー君!」
今日に限っては待っていましたと、フレイヤは両手をダー君に伸ばした。




