表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/312

瞳の朱色・4



 なんだか気抜けした。フレイヤは心を落ち着けるために、紅茶をひとくち口に含んだ。

シャーメインの母ミアも、ようやくカップに口をつけた。



 シャーメインはクリスティナに握手をねだり、そのまま握りっぱなしにしておしゃべりを始めた。


 女優さんと握手をしたら繋ぎっぱなしではないと知らないのか。握手ではなく「手を繋ごう」だとしたらテーブルのマナーとしてはなっていないのだけれど、母のミアが見逃すのならこちらが指摘することでもない。


 ティナちゃんも嫌がってはいないようだし。ここは放置だと、フレイヤはミアに意識を向けた。



「マクギリス様は園遊会の子供劇をご覧になられましたの?」

「はい。夫の知人が入城できるように計らってくれました。クリスティナさんが劇に出ていると気がついて娘はもう大興奮で、あの日以来話題はずっとクリスティナさんのことばかりで」



 なるほど、それなら両手で握りしめているのも頷ける。

マイルス・マクギリスの奥様が「質問がある」などとおっしゃるから身構えたが、いらぬ心配だったようだ、とフレイヤは内心ひと息ついた。



「子供劇に出られるのは十歳から。貴族の子なら望めばどなたも参加できます。一般の子は劇場関係者から誘われての参加がほとんどです」


フレイヤの説明にミアは顔を曇らせた。


「それでは、娘が参加するのは難しいですわね。夫は貴族ではないので……」


 さようですか、と相槌をうちながら、マイルス・マクギリスの身辺について少しでも知りたいと、頭を使う。


「伯爵家に同じお名前があったように記憶しておりますが、ご縁戚でいらっしゃいますか?」


ミアが控えめに頷いた。



「他界しましたマクギリス伯は、夫の兄でした」

「お兄様ならまだお若いでしょうに、お気の毒なことでしたわね」



 クリスティナやレイと親しむ今、フレイヤにとっても心の痛む話だ。ミアが目を伏せる。



「ありがとうございます」

「今、伯爵位はどなたが?」


不躾な質問をずけずけと。


「夫が継ぐつもりでおりますが『心の整理がつくまでは』と留保しております」

「シャーメインさんが劇に出る十歳になる前に継ぐことはないわけですか」

「おそらくは」


マイルスは奥様を相談相手にしないようだ。


「優しい方ですか」


フレイヤの質問の方向が変わりすぎたためか、ミアが小首を傾げた。


「シャーメインさんをお兄様が迎えに来るとクリスティナに聞いたので。お父様もお優しいのだろうと」


 勝手な想像です、と笑みを添える。ミアは今日一番柔らかな表情を浮かべた。



「はい、とても。実は私達は身分違いで、結婚はできないと覚悟しておりました。『大丈夫、私を信じて』と繰り返し言ってくれた彼を信じてよかったです」


 幸せな妻とはこのような方だ、とフレイヤはどこかしみじみとした気持ちに浸る。



「瞳の綺麗な人は信頼できる、と言いますでしょう。夫の瞳はとても綺麗なんです。よく見ると榛色に少しだけ朱色を散りばめた瞳で。お付き合いするようになって気がついて、その時に『この人について行こう』と思いました」



 榛色、それはクリスティナの瞳も同じ。朱色が差しているかどうかを、フレイヤは知らない。

 今すぐ日の当たる場所へ連れ出して確かめたい衝動にかられつつ「素敵なお話ですわ」と無難に受ける。



 マイルスと同じ瞳だとしたら、どういうこと?

マイルスの瞳の特徴がマクギリス家の特徴だとしたら、どういうこと?


 クリスティナがシンシア・マクギリスでないことは、はっきりしているのに。


そろそろこの疑問を解き明かしたい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
激しく同意!! 私もこの謎を解き明かしたいです?たぶん?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ