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瞳の朱色・3

 お母さんが淑女らしからぬ「やってしまった」という顔で娘の口を押さえようとしても、もう遅い。


 止める手をすり抜け、テーブルにお菓子の包みをのせて空いていた椅子に座ったシャーメインは、とてもいい笑顔で母を振り返った。


「お母さんも座っていいよ」



 それは少し違うような、と思うのはクリスティナがシャーメインより少しお姉さんだから。お母さんが「うちの子恐ろしい」と震えているのも分かる。



「どうぞ、お嬢さんのお隣に」


 余裕を取り戻したフレイヤが柔らかな語調で誘うと、シャーメインのお母さんは微苦笑を微笑に変えて「すみません」と小声で言いながら、着席した。



 タイミングを見計らっていた給仕がふたりのお茶とお菓子を運んで来て、ご挨拶だ。



「クリスティナがお世話になります。ご挨拶が遅れまして、フレイヤ・スケリットです」

「シャーメインがご迷惑をおかけしております。ミア・マクギリスです」



 マクギリス? アンディはアンドリュー・マクギリスなの?


 つい反応したクリスティナと違いフレイヤは微動だにしない。ということは「マクギリス」というお名前は五本の指に入るくらい多い名前で驚くべきことでもないのだろう。子供は世間知らずだから、とクリスティナは解釈した。



「クリスチナ、女優さんになるの?」


シャーメインの顔にはワクワクが広がっている。


「『クリスチナ』さんじゃなくて『クリスティナ』さんでしょう。すみません、間違えて覚えてしまったようで」

「クリスチナ!」


 そう言っている、とシャーメインが不満げにする。お母さんにそんな態度を取ったら絶対に後から叱られる、と思ってハラハラするのはクリスティナのほうだ。



「私も同じに聞こえます」


 クリスティナが言い切りフレイヤが「本人がそれでいいのなら」と大きめの独り言を口にすることで、シャーメインのお母さんも引かざるをえない。


 また「すみません」。さっきから謝ってばかりなのが、クリスティナにはお気の毒に思える。 



「さて、クリスティナさん。シャーメインさんから『女優さんになるの?』とご質問をいただきましたが、そのことについて一言お願いします」


 フレイヤが取材をする記者のように茶化して尋ねたのは、場の雰囲気を変えるため。


「出演の依頼がある間は頑張りたいと思います」

「そうなの?」


 フレイヤが意外そうにするのは当然。クリスティナだってそんなことは初めて言ったのだ。



「かっこいい」


 年下の女の子に、両手で頬を押さえてほうっと息を吐きながらうっとりとされて、クリスティナは得意なようなくすぐったいような。

 かっこいいと言われたからには唇をきゅっと引き締め、にやけ顔をお姉さん顔にする。



「あの、失礼とは承知のうえで、教えていただきたいことがあります」


 切り出したシャーメインのお母さんの思い詰めた様子に、フレイヤが顎をひいて目を僅かに大きくする。


「園遊会の子供劇に出していただくには、どのようにしたらよろしいでしょうか」



 フレイヤから「えっ」と声にならない声が聞こえた気がした。もっとすごい質問が来ると思って身構えたのは、クリスティナも同じ。


シャーメインのお母さんは、顔を赤くしている。


「お恥ずかしい限りですが、私、これまで上流階級の方に接する機会が少なくて。どなたにお尋ねしていいのかも分からなかったのです……」



 シャーメインのお母さんはアンディのお母さん。クリスティナが勝手に想像していたのとは違い、恥じらう姿は女の子のようだった。



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