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瞳の朱色・2

「――あの子」

「シャーメインよ。今日はお母さんと一緒だけど、ひとりの時もある。あのね」


クリスティナが口ごもる先をフレイヤが引き取る。


「お兄さんがアンディね」



 クリスティナが一緒にお茶を飲んでいたテーブルに妹シャーメインを迎えに来たお兄さんがアンディ。初対面のような態度を取られてショックを受けたのは忘れられない。


 でもフレイヤお姉さんは、次に会ったら「あなた誰?」と言ってやれと、クリスティナ以上に腹を立ててくれた。

 ジェシカ母さんが「アンディにだって事情はあるんだ、放っておきな」とさらりと言ったことで、仕方がないと思えた。


 なんて言ったって、アンディは甘ちゃん坊やなんだから。




シャーメインが、ぐずっているみたい。


「シャーメイン、お花を渡したいって言っても、お花屋さんに行って戻る間にお帰りになってしまうかもしれないわよ」


 お花を渡したい? 誰に?

聞き耳を立てるフレイヤとクリスティナをちらりと見たシャーメインのお母さんと目が合う。


「それなら、お花は次にして『舞台を見て感激しました』とお菓子をお渡しするのは、どう?」


 娘をなだめながらこちらへ軽く頭を下げるシャーメインのお母さんに合わせて、フレイヤが頷く。保護者同士で話がついた。



 それなら妥協するとばかりに、母の手を引っ張りお菓子のワゴンへと急ぐシャーメインの背中が可愛い。

 クリスティナが思わずにこりとすると、少し硬かったフレイヤの頬も緩んだ。




「私にお菓子をくれたいのかな」

「子供劇を見てティナちゃんが出ているのに気がついたのね。そしてすごく素敵だったから応援したくなったのね」

「そんなこともないと思うけど、どうかな」


 真顔で言われるとくすぐったい。照れて否定するクリスティナにフレイヤが微笑する。




 シャーメインは、リボンを掛けた包みを大事そうに両手で持って戻って来た。


 緊張して待つクリスティナ。シャーメインは、テーブルより離れた所でピタッと足を止めてしまった。


「?」

「あらあら」


 ここに来て恥ずかしくなってしまったのね、とフレイヤがクリスティナに囁く。


 シャーメインはもじもじと下を向いていて、お母さんは困っている。


 クリスティナが努めて笑顔を作ったのは、お姉さんの自分が頑張るしかないと思ってのこと。



「こんにちは、シャーメイン。会えて嬉しい」


 シャーメインは弾かれたように顔を上げた。みるみるうちに頬が上気して口角が上がる。


「私も。お花をどうぞってしたかったのに、お母さんが次にしてって言うから、今日はお菓子をどうぞ」



 後ろでシャーメインのお母さんが、声に出さずに唇を動かして「受け取ってやってください」と伝えてくる。


少し考えた風にフレイヤが。


「遠慮なくいただいたら? ティナちゃん。それでシャーメインちゃんとお母様がよろしければ、ご一緒しませんか」

「はい。します」



誰よりも先に返事をしたのはシャーメインだった。



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