騎士四家・2
クリスがくふっと笑って得意げにする。
「ジェシカ母さんが言ったのを、そのまま覚えた。なんかかっこいいでしょ」
「そんなことだろうと思ったよ」
それにしてもよく覚えられたものだとアンディは感心した。
勉強というほどでもない読み書きを教えていても、時々「できるな」と感じることがある。
クリスこそ山をおりて学校に通うべきだ。
などと偉そうに自分が言うことではない。
それより、騎士四家。絵本になっているくらいだから、ここら辺りでは知られた話なのだろう。
「オヤジさんは、なんて?」
「オヤジは『声の大きい奴、体力のある奴が強いんだ。金のある奴が幅を利かせるけど、賢くないと結局だめになる』って。ジェシカ母さんより、言うことがつまんないでしょ」
同意を求められても困るので、笑ってごまかす。
「他にも騎士四家で知ってることはある?」
そうねえ、と頬に指を添えるのは誰の真似だろう。少し可愛い。
「家を色で示すこともある。隠語なの。カラスのおうちは『黒』、山猫のおうちは『金』、クサリヘビのおうちは『灰』、狼のおうちは『赤』」
「ふうん。狼の『赤』が不思議だね。狼は赤くないよね」
「そこは、絵だから」
屁理屈をいう子供に向けるような目つきをされて、アンディとしては心外である。
山賊の子だけあって「隠語」なんて聞き慣れない単語をさらっと口にする。
「それに黒も灰色も先にとられちゃったんじゃない? カラスは白でいいと思うんだけど、色を決めた人は知らなかったのよね」
クリスは不思議なことを言う。
「カラスは黒いよね」
「よくいるカラスはね」
「白いカラス」とは、あり得ないことの例えだ。深い意味があるのかと勘繰っても、相手はクリス、意図はありそうにない。
「お名前があるかもしれない」
クリスの指がカラスの旗を示す。
「ぴぃちゃん」
山猫に移る。
「にゃーごちゃん」
クサリヘビは
「ずるちゃん」
狼は
「はうるちゃん」
センスがない。そしてクサリヘビはひどすぎる。アンディが絶句するのに、クリスはまったく気にしていない。
「それ、一般的なもの?」
「ううん。今私がつけたの」
「……そうかなと思った」
アンディが寝るまでご本を読んであげる、と寝転ぶクリス。
先に寝るのはクリスに決まっていると思いながら、脱力感いっぱいのアンディも隣に並んで本をのぞき込んだ。