瞳の朱色・1
ティールームの「季節のお菓子」にクリスティナは目を見張った。
食べ物に見えない。いくつもの果物を同じ大きさの球形にしてゼリーに閉じ込めたものらしい。全部が沈んでしまわないで、ちょうどいいところに球が浮かんだようになっているが、どうしたらこうなるのか。
「夏のお菓子は綺麗だけれど、秋に栗のお菓子が出てくると『やっぱりこっち』と思うのはどうしてかしらね」
ゼリーは持ち帰りにくいので、ここで食べて行こうと、フレイヤとクリスティナはいつものティールームでお茶を楽しんでいた。
秋のお菓子は美味しい。フレイヤの意見にクリスティナも賛成だ。フルーツゼリーは果物の味がして美味しい。でもそれなら果物をそのまま食べればいいんじゃ? と思ってしまうのは自分が田舎の子だからかも。
白いお皿の上で、一口すくう毎にふるりと揺れるゼリーのきらめきは「おお」と言いたくなるもの。これがゼリーの良さなんだろう。
前に「季節のお菓子を制覇しましょう」と宣言した通り、フレイヤはクリスティナをティールームに連れて来てくれる。
毎度お店を変えるのは、レイ。その日会った人にお勧めのお店を聞いて、買ってくるらしい。もちろんクリスティナにではなくフレイヤお姉さんにだ。
ちゃんとクリスティナの分も買ってきてくれるので、そのたびに「レイはいい男だよね、お姉さん」と、レイのことを応援してあげている。
演出家から依頼を受け剣や体術の演技指導を行っているレイの筋肉に憧れて、体を鍛え始める俳優もいるらしい。
「胸を厚くして肩を盛り上げたところで、のっているのが細い顎の優美な顔なのは違うと思わない? そこのところ、彼らには自分で気がついて欲しいわ。やっぱりここは本物を世に知らしめるべきよね。クリスティナちゃんからも、マードック様に『裏方ではなく表に出てみません?』とぜひ誘ってね。ああ、あのタイプの産出される土地に行ってみたいわ。どっちを向いても筋骨隆々男子が歩いているんでしょ」
ところどころ分からないところがあっても、イヴリンさんの息継ぎなしの長いお話はいつも楽しい。
などと思い出しながらクリスティナは、果物を器用に掘り出し穴だらけのゼリーを作るという遊び食べを熱心にする。
「ティナちゃん、剣術の筋がいいそうね」
「お世辞だと思う」
フレイヤの言葉にクリスティナは食べる手を止めた。
子供の外遊びとは棒きれを振り回すことと信じている野郎共に付き合って、山では剣術をほんの少しかじった。
アンディが来て分かったけれど、クリスティナの剣は軽い。アンディが普通に振って出る音は、クリスティナの全力の音だ。好きならそれでも続ければいい、特別好きではなかったから止めた。
「子供の頃にもっと練習しておけばよかった」
「ふふ、子供の頃にね」
まさか人前で披露する機会があるなんて。クリスティナは真面目に悔やんでいるのに、フレイヤはほがらかに笑う。
通りに面した店の扉が開いた。クリスティナが何気なくそちらを見ようとした時。
「お母さん、クリスチナがいる」
先に名前が呼ばれた。見れば、女の子が母親の手を引きあっちのテーブルへ行きたいとねだっている。シャーメインだった。




