飛び入りイヴリン・1
クリスティナとフレイヤは園遊会が終わって気の抜けた日々を送っていた。
レイは見聞きした事を手紙にしたため、フェリーからの次の依頼を待つ間「ジェシカ母さんの宿」に相応しい物件を探す。
今日もひとり建物の仲介者に会いに出掛けたので、クリスティナとフレイヤはこれ幸いと「紳士には見せたくないだらしない格好」で「禁断のお食事」をしていた。
「お姉さん、これ最高」
「でしょう。パンの柔らかいところだけを使って甘いクリームといちごジャムを挟んだの。固いところはミルク煮にしてベーコンとチーズをのせて焼いてみたわ」
レイがいる時は、野菜を使った料理は欠かさない。今日はフレイヤの手抜き料理だ。
しかし、誰も来ないと油断している時に限って訪問者があるもの。約束なしに訪れたのはフレイヤの従姉妹イヴリンだった。
「マードック様がいないからって、ちょっと気を抜きすぎじゃない?」
勧めないうちからダイニングテーブルにつき、お皿とカップを要求する。
「文句を言いながら、ちゃっかり食べていく気なのは、どうなのかしら」
「この後も何軒かお客様を回るのよ。ちょうどお昼だから、フレイヤのとこで食べようと思って」
「予告なしに来るから、ふたり分しかないわよ」
嫌味を言いながらもフレイヤは自分の皿からイヴリンの皿にジャムクリームパンをひと切れ乗せる。
真似をしてクリスティナも、まだ手を付けていなかったハムエッグを半分、イヴリンの皿に移動する。
「まあ! ありがとう、クリスティナちゃん!」
「ちょっと、子供から食べ物を奪うのはやめなさいよ」
「奪ったんじゃないです、頂戴したんです。ね? そうよね、クリスティナちゃん」
イヴリンがごめんなさい、私の分をあげるから。フレイヤがクリスティナの皿と自分の皿を交換する。
クリスティナにしてみれば、お姉さんふたりのやり取りが楽しいだけなのだけれど。
うん、お茶も美味しいわ。と遠慮のないイヴリンに、フレイヤの視線は冷たい。
「イヴリン、食べたら帰ってね」
「もちろんよ、食べに寄っただけだから」
しばらくは食べることに集中した。そして、お腹がふくれた頃にイヴリンがクリスティナに微笑みかけた。
「子供劇では大活躍だったわね。クリスティナちゃんのおかげで、これまでにない活劇になったわ。演出家も感銘を受けて、大人の舞台でも冒険活劇を思案中なの」
「お褒めにあずかり恐縮です」
クリスティナの挨拶は照れもあって硬いものになってしまった。
「でね」
口元を拭いたイヴリンが、クリスティナに向き直り姿勢を正す。
「今は季節がいいから、富裕な方々は皆さんガーデンパーティーを開くの。お客様を楽しませる催しとして喜劇の一幕を依頼されるのは例年のことなんだけど、ほら先日の子供劇が人気だったでしょ? 噂が噂を呼んで『うちのコにもさせたい』とか『うちのパーティーでも演じて欲しい』なんて依頼がたくさん。海賊船とお姫様はお庭で映えるから、今後の定番になりそうね。舞台装置の船も改良して運びやすい簡易な組み立て式のものを作っているところなの。どう? ワクワクしてこない?」
イヴリンの長いひとり語りが好きなクリスティナは目を輝かせた。




