シンシア・マクギリスかもしれない
「ぴぃちゃん」のマクギリス伯爵家は、ティナちゃんとお母さんが住む城砦を治めていたお家。
「ずるちゃん」のアガラス家はフレイヤにとっては存在感の薄いお家だったのに、ダー君のせいで強烈な印象が刻みつけられてしまった。
「はうるちゃん」のルウェリン家はラング様とレイさんのお家。
この部屋に集ったカラスと蛇そして狼は以上の三家の守護様だ。
フレイヤの視線は「ぴぃちゃん」に。おそらくティナちゃんの野生の勘の源は、翼の先のピンクが愛らしい白カラスだ。可愛いだけのダー君より優秀。
そして自分が寛ぐことがティナちゃんの休息を誘うと心得ているかのような包容力に溢れた「はうるちゃん」。狼なのに人語を操るなんて尋常ではない。
可愛いだけのダー君とは、なんと言うか奥行きが違う。
きりりと引き締まった表情が雄々しい。
ダー君につい「可愛いだけ」を繰り返してしまったと反省しつつフレイヤが思い浮かべるのは、山猫のハートリー家。
本日、守護様勢揃いにならなかったのはハートリー家のどなたも王城にいらしていなかったからだ。
ハートリー家は、マクギリス家から城砦を奪った、ティナちゃんにしてみれば敵のようなもの。
なのに憎しみを口にしないのは、ひとえに養親の教育のたまものだろう。さすがジェシカさんだ。
「アガラス様は園遊会に招かれたのかしら」
レイさんがお顔を見分けられたということは、騎士四家には交流があるらしいと推測する。
「そこまでは。俺が見かけたのは当主ではなく嫡男でした。クリスと似たような年頃の女の子を連れていました」
「お嬢さん?」
考える目つきで。
「嫡男はまだ独身のはずです」
言い方に含みのある理由は、フレイヤには想像がつかない。
「連れていた女の子の特徴が、クリスから聞いたシンシア・マクギリスと同じだったんです」
「っ!」
そこに繋がるとは思いもよらなかった。次の疑問は。
「でもレイさん、アガラス様を頼るほど仲は良好でしたの? マクギリス様は」
「四家のなかでは良好な二家でした。うちは独立志向が強く、ハートリーとマクギリスは長く対立していますから、当然ハートリーとしてはアガラスを味方につけたい」
シンシア嬢がアガラス様の保護下にあるとなると……どうなるのかしら?
真剣に考えてもフレイヤには意味合いが分からない。けれど、深刻な雰囲気を醸す彼に向かってのんきに「で? 」とは聞きづらい。
話の続きを待っても、レイさんは厳しい顔つきでなにごとか考えているばかり。
またまた人任せで恐縮ながら、これはジョナサンの手紙を待つより他にないと結論を出した。
腕のなかでほんのり温かいダー君には聞くだけムダだろう。
「ダー君、そろそろお帰りあそばせ」
耳元に唇を寄せて囁けば、むにゃと反応するけれど起きそうな感じはしなかった。




