小さな海賊クリスの獣園・4
「まさか、守護様? なぜ俺にまで見える」
独り言ならお返事はいらない。誰もが黙っていると、レイが顔色を変えた。
「ラングに、なにかありましたか!?」
「はんっ」
笑い飛ばしたのは狼だった。
「ラングならピンピンしてる。俺くらいの力がありゃあ、一族直系のレイは望めばいつだって俺を拝めたんだ」
なるほど、拝みたくないから望まなかったんだね。クリスティナは納得だ。
レイが失礼を詫びるように胸に手を当てて頭を垂れる。
狼は鷹揚に目顔で「受け入れた」と伝える。はうるちゃんったら偉そうに。
「では、その子供は?」
問いかけに返事はない。ダー君はいつの間にかすやすやと眠っていた。唇が少しだけ開いて、それがまた可愛い。背中の羽が暗色でも天使と間違えてしまいそう。
「可愛いでしょう」
フレイヤお姉さんはなぜか得意げにダー君の寝顔を見せるけれど「そうではなく」と全員が思っているはずだ。
クリスティナは、あくびを噛み殺した。ダー君の寝顔につられたらしい。
目ざとく見ていたはうるちゃんが床に伏せる。
「もたれていいぞ、クリスティナ。大人の話は長え、寝て待ちゃいいんじゃね」
そうなのかな。ちらりとお姉さんを見ると、ダー君の背中をとんとんとしている。
「重くないですか、代わりましょう」
「それがね、この子は羽みたいに軽いのよ」
なんだかふたりがダー君のお父さんとお母さんみたいだ。
この後「寝顔が可愛い」とか「フレイヤさんはいいお母さんになりそうですね」なんて続くのは、クリスティナにはお見通し。ほんと、これなら少し寝ようかな。
狼が尻尾をパタリとする。
「ほれ、来いよ」
大きな枕みたいで気持ちよさそうに見えちゃう。ちょっとだけね、とクリスティナははうるちゃんに身を預けた。
「あら、ティナちゃんまで。疲れたのね」
床では狼が寝そべり、そのお腹を枕にしてクリスティナが眠っている。またその隣にはお腹を上にして寛ぎきった白い鳥の姿が。こちらも遠慮なく眠っている。
フレイヤは「自分でうまく説明できるかどうかは分からない」と断りを入れて、抱いている幼児が蛇を捕まえてきたことをレイに伝えた。
思わずと言うようにレイが狼を見る。
「アガラスが来てるだろ、レイ」
狼の声が低いのは、寝ているクリスティナに配慮してだろう。
「はい」
「『ずるちゃん』だ」
「はい?」
レイが聞き返す。狼がつまらなそうに続ける。
「アガラスのクサリヘビは『ずるちゃん』、そこで寝てるマクギリスのカラスは『ぴぃちゃん』。クリスティナはそう呼ぶ」
「そして私が大型犬と間違えてしまった狼さんは『はうるちゃん』」
にこりとするフレイヤに狼が一瞬だけ笑みを返す。
「名前が? カラスまで俺に見えるのはなぜでしょうか」
「ちっとは自分の頭を使え。ダーがいるからにきまってるだろ。永遠の問題児ダーがよ」
そして、狼はこれ以上の会話は御免だとばかりに目を閉じた。




