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小さな海賊クリスの獣園・3

 頭を拭いてもらう間も「蛇逃げちゃった」と残念がるダー君に、「なんでも捕まえてはいけません。特にヘビはダメ」とお説教するお姉さんは、蛇が苦手なのだろう。



「ダー君、これからしなくなるかな」


 隣に戻って来たはうるちゃんに小声でクリスティナが聞くと予想通りの答えが返ってきた。


「いいや、何度でもするだろ」

「そうだよね」



 あの蛇は見事に消えた。ということは本物の蛇じゃない。


「あの蛇って、ずるちゃん?」

「なんだ、その『ずるちゃん』って」


 毛の生えたお顔でもはうるちゃんの表情は分かる。


「ぴぃちゃんとはうるちゃん、にゃーごちゃん、ずるちゃん」



 私が鳥さんと呼ぶぴぃちゃんは白いけれどカラス、はうるちゃんはルウェリンさんちで会ったから犬じゃなくて狼、にゃーごちゃんは山猫。となるとあの蛇はクサリヘビのずるちゃんだ。



「さっきのはアガラスのクサリヘビだ。背中に鎖模様があったろ。クリスティナ、あいつにも名前つけたのか。しかも『くさり』じゃなくて『ずる』ときた」


 はうるちゃんの笑いはオヤジっぽい。私だって蛇は嫌なのに、そんな模様までしっかり見ているはずがない。


「いいでしょ、別にずるちゃんでも」

「悪いって言ってねえだろ。怒んなよ」


 はうるちゃんが体をどんとぶつけてくるから、足を踏ん張ってふらつかないようにする。オヤジが背中をバンと叩くのとタイミングが同じだ。



 その間にダー君についたヨダレは拭けたらしい。


「もういいわ。綺麗になったでしょ」

「もとひ、大好き」


 お姉さんを見上げるお顔がきゅんとするほど可愛いけれど、そこは「ありがとう」じゃないかな。




「お、レイ来たぜ」


 はうるちゃんの言葉と同時に扉がノックされ「遅くなりました」とレイが入ってきた。後ろ手に扉を閉め、動きを止める。



「どうかなさって? レイさん」


 ダー君の頭を撫でながら、不思議そうにするお姉さん。



「いい女は豪胆だな。俺の好みど真ん中だわ」


 はうるちゃんの好みはどうでもいい。でも前半はクリスティナも同意する。こんな獣の園になっているのだもの、固まるレイが普通の態度だと思う。



「子供?」

レイがダー君を見て

「……狼?」

はうるちゃんを見る。


「よう、レイ」

「話す……狼!?」


 はうるちゃんの挨拶に驚いたレイの背中が扉にぶつかって音を立てる。



「はうるちゃんは話せるよね。ぴぃちゃんは話せないけど」

「俺は格上だからな」


クリスティナの発言を狼が補足する。



「もとひ、あのひと誰? ダー怖いよ」


ダー君がフレイヤお姉さんの手を握る。


「大丈夫。レイさんは乱暴したりなさらないわ」


 それでもダー君が怖がるので、お姉さんが抱っこして立ち上がった。



「あ、あいつウソついてやがる」


 忌々しげに呟いたはうるちゃんにダー君が寄越した流し目は優越感に溢れていた。


 怖ければ消えればいいだけの話だから、ダー君の「怖い」は抱っこされるための口実なのだ。感心するほどずる賢い。



「俺は起きたまま夢を見ているのか」


 レイが自分の目元を手で覆うのなんて、初めて見た。どうしたものかと思うクリスティナより先に。


「いいえ、現実ですわ。ですが狼ではなく大型犬です」


 言い切るお姉さんが間違っていると教えてもいいかな。クリスティナより早くレイが。


「その子供、背中に羽が!? しかもコウモリのような」



 聞いてダー君が「怖いよ」とお姉さんの胸に頬を擦り寄せる。


「ダーのヤツ、調子にのってんな」


 狼が舌打ちした。そこで「俺がしてえ」なんて言ったら蹴飛ばすからね、とクリスティナ思ったのが伝わったらしく、金眼をギラつかせただけにとどめる。



「現実受け入れるのが遅えぞ。戦場だったら遅れを取ってる、それでもルウェリンの男か。そして俺は狼だ」


 はうるちゃんの不満のぶつけ先はレイだった。ただの八つ当たりだ。



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