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小さな海賊クリスの獣園・2

 お姉さんの喉から、声にならない悲鳴が漏れる。

 クリスティナとしてはなんとかしなくちゃと思うけれど、山賊の子とはいえこんなに立派な蛇を見たことはない。


 ぴぃちゃんは丸呑みされてしまうこと間違いなし。だいたいダー君のことを苦手としているのに、蛇とダー君のセットなんて無理に決まっている。



「蛇を見つけたよ、蛇!」


 ダー君がくふくふと笑う違和感がすごい。

それはフレイヤお姉さんも同じだったらしい。


「ダー君、しっかり!」


 それともちょっと違うような、とクリスティナは思う。今までのダー君を考えると、迷惑しているのは蛇のほうじゃないかと。


 どちらにしても、このままではよくないのは明らかだ。



「誰か、助けて」

続けて禁断の名を口にする。

「もう、はうるちゃんでいい」



「おいおい、いつも言ってんだろ。『でいい』は失礼だって。かまってちゃんだな、クリスティナは」


 文句を言いながらも、来てくれる狼。でも「かまってちゃん」ってなに。


「げっっ。ダー絡みかよ」


 一瞬で場の様子を把握した狼が金眼をむいてゲンナリするって、かなりのこと。


「そんなこと言わないで、なんとかして。はうるちゃん」



 クリスティナとはうるちゃんが話す間も、お姉さんは説得を試みていた。でもダー君は聞き入れない。


「蛇に会えるのは珍しいのよ。だからダーは遊びたいよ」

「ダー君、手を離しなさい!」

「離したら逃げられるよ」

「逃げられていいでしょう」

「逃げられるのダーはイヤよ。蛇と遊ぶの」



 聞いているはうるちゃんから表情が抜け落ちる。


「ガキは、仕方ねえな」

「はうるちゃんだけが頼り。ありがとう、はうるちゃん」

「まだ何もしてねえぞ」

「引き受けてくれた」


狼が目を細める。


「ま、クリスティナの頼みだからな」



 おし、やるか。と足音もなくダー君の後ろに回り込み、パクリ。金髪頭を丸ごと口のなかに入れた。


「わああっ。暗くなったよ。なんだか濡れているよ」


 うわあ、あれは嫌すぎる。私は絶対にされたくないとクリスティナは少しだけダー君に同情した。 



ダー君が蛇を手放し、ぷくぷくの手を振り回す。

狼がギラリと目を光らせ、蛇に目配せをする。

瞬きすらしない蛇からは感情の読み取れない視線が返る。


 はうるちゃんが床をひと叩きする。それを合図に舌をチロチロした大蛇が冷たい目で室内を見回したかと思うと、ものの見事に姿を消した。



「出して出してよ。ここからダーを出して」


 まだ落ち着くのは早い。狼にパクリとされた幼児がここにいる。


 背中のコウモリの羽は白が似合うと思っていたけれど、ダー君のいたずらっ子ぶりを見るともっと黒くてもいいような気がしてくる。



 前触れなくはうるちゃんが口を開け、ダー君を解放した。急いでフレイヤお姉さんがダー君に駆け寄る。


あれ。

「お姉さん、はうるちゃんのこと怖くないの」

「昔お隣の家が大型犬を飼っていたのよ。こんなカッコいい犬種じゃなくて、毛の長い雪山に強い犬だったけれど。大型犬は人の友人だもの、ティナちゃんのお願いも聞いてくれるのね」



 はうるちゃんは犬じゃなくて狼なの。

犬と言われたのに、なぜかはうるちゃんは上機嫌で、にんまりしている。


「聞いたかクリスティナ、俺のことカッコいいってよ。やっぱいい女だな」


 オヤジ、オヤジがここにいますよ。安全な高い所に移動したぴぃちゃんの心の声が聞こえるみたい。 



「もとひ、ダー君べたべた嫌いだよ」


 べそをかく。とは言えこの部屋にはお湯もお水もない。思い出してクリスティナは頭に巻いていた海賊の布を外してお姉さんに渡した。


「これで拭いて」

「いいの、ありがとう」



「ね、ダー君。蛇に絡まれたんじゃなくて、ダー君が蛇を捕まえたのが先ね?」 


 丁寧にお顔を拭いてあげながら、フレイヤが尋ねる。どうやらお姉さんもクリスティナと同じ考えに至ったらしい。



「すっごく久しぶりだったから。嬉しくて捕まえたよ。遊ぼうと思ったのに逃げられちゃったのよ」


 ダー君が残念だと悲しげにする。クリスティナとフレイヤお姉さんに交わされた目配せは「やっぱり悪いのダー君だった」だ。 




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