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小さな海賊クリスの獣園・1

「あら、かわいい。子供劇が終わったのかしら」


 たったか走るクリスティナに微笑む淑女にお礼がわりに手を振ると「明日行きますわね」なんて声が返る。

 今日だけの催しでしたって教えてあげたいけれど、通り過ぎてしまっている。



 楽しかった! 次もさせてくれたら今度はもっと上手にやるのに。


 クリスティナがちょっと惜しかったと思うのは樽の上で剣を振るう場面。


 剣が軽くて迫力が出ないのは諦めるとして、長さが中途半端だったのがいけない。もう少し長いほうが屋外で映える。

 次はレイに言って……って、劇は今日限りなのでした。








 ぴぃちゃんに早く話したい。走ってはいけない廊下は速歩にして進む間に「私の着替え、レイ忘れないで持ってきてくれるかな」と気になっても、戻らない。


ルウェリンさんちのお部屋に飛び込むと同時に。


「ぴぃちゃん、見てた?」


 高い窓の縁にぴぃちゃんが現れた。遠いと思ったら、片翼を上げて器用に斜めに滑降してくる。

 着いた床で翼を片方ずつバタバタさせるのは、きっとクリスティナの剣の真似だ。


「うふふ、真似したくなるくらいカッコよかった?」


そんなに頭を振ったら首がもげちゃうよ、ぴぃちゃん。


「サイン欲しい? 白いところに書いてあげようか」


あらら、全力でお断りされた。



 クリスティナがぴぃちゃんと劇を振り返っていると、廊下で声がした。


「このあたりかしら。扉がどれも同じで……ティナちゃん、いる?」

「フレイヤお姉さん!!」


 ここよ、と扉を開ける。ちょうど扉の前にフレイヤがいた。


「ティナちゃん! 大活躍だったわね。ティナちゃんが主役かと思ったわ」

「うふ。ほめすぎ」


 主役はお姫様達だと知っているお姉さんに、そんなことを言われると照れちゃう。


「でも、先に聞かなくて良かった。聞いていたら絶対に止めた」


 顔をしかめてから、ぱっと笑顔になってクリスティナを抱きしめる。


「止めていたら、誰よりも輝くうちのコを見られなかったから、内緒にしてくれてよかったと言うべきね」



 お互いの背中に手を回しあって、部屋に入る。


「ティナちゃんには華があるわ。きっと、イヴリンが『子役しない?』ってうるさいわよ」

「それはないと思う」



 お部屋には椅子もないので立ったまま話すか、床に座るか。すぐ近くにぴぃちゃんがいるけれど、お姉さんが言わないということは、見えないのだろう。



 失敗した場面を身振り手振りを交えて説明する。楽しそうに聞いてくれるから、熱演になる。


「クァッカー」


 警告するかのような鋭い鳴き声がした。ぴぃちゃんしかいないのでぴぃちゃんに決まっているけれど、この鳴き方は珍しい。


 次にしたのは大きく息を呑む音。今度はなに。フレイヤお姉さんが両手で口を押さえて部屋の中央を食い入るように見ている。


 ぴぃちゃんからお姉さんに視線を移したクリスティナも部屋の真ん中を見て、「うわあっ」と叫んでしまった。



 そこでは金髪の男の子が蛇と格闘していた。この上なく楽しそうに蛇の首を両手で締めるダー君より蛇のほうが長くて、小さな体に巻きついても尻尾がまだ余っている。


 天使のような幼児が大蛇の首を締め、同じ大蛇に幼児の全身が締め上げられるという、目を疑う場面が繰り広げられていた。



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