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海賊と侍女・3

「レイ、アンディがいた」

「俺も気がついた。アンディの隣に両親がいただろう」


 立たせてもらいながら、話す。甲板の上では勝利の雄叫び場面で劇が終わり、拍手喝采を浴びているところだ。


「アンディしか見なかった。宙ぶらりんの時だったから」


クリスティナの説明にレイが顔をしかめる。


「フレイヤさんの心臓が縮み上がったぞ。あとで謝れよ」


 お姉さん、心臓悪かったっけ? 謝るほどのこと? と思ってもここは「うん」だ。


「この喝采の半分はクリスのものだな」


 レイが耳を澄ます風にするので、クリスティナも真似る。大きな拍手はまだ続いている。我が子の舞台だから感動もひとしおなのであり、別に私のおかげじゃない。



「このあとの劇関係者打ち上げ会まで時間がある。フレイヤさんにも行ってもらうから、先に王城のルウェリンの部屋に行っててくれないか」


 場所は分かるよな、と念を押す。大丈夫、クリスティナにはぴぃちゃんもついている。今は見えないけれど、呼べばたぶんそこらにいるはず。


「どうかした? レイ」

「いや、顔見知りとの挨拶が煩わしいだけ。会まで隠れていよう」


 へえ、レイでもそんなことあるんだね。クリスティナは、背中で拍手を聞きながら言われた通り王城へと歩き出した。









 小さくて勇敢な海賊の姿が庭園の向こうに消えるのを見送って、レイは舞台装置から離れ観客を横から見られる位置に移動した。


 剣の演技指導だけでは済まず、裏方も手伝った。クリスティナが心配だったので見守りついでだ。


 どこから落ちても打ち身程度だろうが、預かる身としてはオヤジとおっかさんの手前「そのくらいならいい」とは言えない。


 思い切りよく「海」に落ちた時には、さすがに「頭を打ったらどうする」と叱ろうと思ったが、得意気な顔でにっと笑われて気が失せた。



 アンディの隣には妹と両親がいる。その父親の顔に既視感があった。髪と顔立ちがかつて面会したことのあるマクギリス伯爵の面差しに重なる。



 そして他にひとつ気になるのは、二十代半ばの青年と歳の離れた妹のふたり組みだ。


 あれはアガラスの息子じゃないのか。しかし、あの家に娘はいなかったはず。ならば縁者か。気になって目を凝らして確かめた髪色は白っぽい金髪で、瞳は緑。


シンシア・マクギリスの特徴に近い、と思った。




「レイさん! ティナちゃんは」


 息を切らせて、名を呼ぶ人がいる。探し探し来たらしいフレイヤが風で髪を乱しながら近寄った。


「カーテンコールに出ないから、なにかあったのかと」


フレイヤさんは心配顔もとてもいい――ではなく。


「大活躍したので疲れただろうと、王城の部屋へ行かせました。俺は少し片付けてから行きますから、フレイヤさん先に行っていてもらえませんか」


先に書いていた城内の順路を手渡す。


「ここは?」

「ルウェリン家が賜った部屋です。気兼ねはいりませんが、なかは何もない。クリスの熱演を褒めてやってください」



天を仰いだフレイヤが息を吐く。


「その熱演に倒れそうになりましたわ。あんなことをするなら先に教えてくださいませんと」


 言い方が可愛らしくて、レイは肩を抱いた。フレイヤは避ける素振りもなく上目遣いで訴える。


「内緒にするなんて、ひどいわ。本当に鼓動がおかしくなったんですから」

「その苦情は、クリスに言ってください」


 

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