海賊と侍女・1
私にももう少しセリフがあってもよかったのに。
これまでのいきさつを長々と説明している侍女役の女の子がちょっと羨ましいクリスティナ。
舞台装置である船はいくつにも分割されていて、角度を変えるとあら不思議、お部屋になったり灯台になったりする。
道具係さんがすごく頑張ったらしいので、お天気が良くてなによりだ。
「王子様を助けるのは私達の仕事よっ」
隣の女の子のセリフに続いて。
「行くわよ、みんな!」
はい、クリスティナのセリフはこれだけ。
お互いではなくお客さんのほうを見て言うのが、子供劇の特色。
あ、フレイヤお姉さん見っけ。後ろの方で、両手を握りしめて肩に力が入っている。
手を振りかけてクリスティナはダメダメと我慢した。
イヴリンさんに「お家の人を見つけたからといって、手を振ったりおどけたりするのは禁止。集中して」と言われていたのだった。
想像していたより観客が多く、たいていは子供連れ。来年の劇に参加したい子が家族で来ているのかもしれない。
ちょっといいな、なんて感傷的になるのは集中していない証拠。
次は見せ場の乱闘場面。まずは海賊への早着替えをしなくては。
クリスティナは物陰へと駆け込んだ。
「クリスチナがいる!」
シャーメインが興奮気味にアンディの上着を引いた。
「どこ?」
絶対に見間違いだと思いつつも、一応聞いてみる。
「端っこにいる」
「そうかな」
自信満々に指をさされても、お化粧をしているし「行くわよ」だけではクリスと断定はしかねる。
「あ、ひっこんじゃう」
「また出てくると思うわ。この後お嬢さんたちが王子様を救い出すのよ」
がっかりしたシャーメインに母が優しく筋書きを教える。
「王子様ではなく殿下と言うべきでは」とか「時代が分からないなりに、連れ去りを追うのは護衛か近衛兵、侍女じゃない」なんて言うのは大人げないんだろう。それはアンディにも理解できた。
ただ「劇に出ないか」と誘われた時にきっぱり断っておいて良かったとは思う。自分には向いていない。
「そのクリスチナさんは、どこでお友達になったの?」
「ティールーム」
母と妹の会話に黙って耳を傾ける。
「楽しいところにお兄ちゃんが来ちゃった」
迎えに行ったのに苦情を言われるのは納得がいかないけれど、ここも黙しておく。
「良くしていただいたのね。アンドリュー、お礼を言ってくれた?」
不意を打たれて、びくっとしてしまった。
「あ、うん。お礼だけ」
声が上ずったのを誤魔化すのに板を敷いた簡易舞台に目を凝らすふりをする。
地面から背丈くらいまで青い横断幕が引かれていく。
どういう作りになっているのか、部屋であったものをぐるりと回すと船になった。
観客から感嘆の声が漏れるなか、なんと帆柱まで立つ。海原に船が浮かんだ。




