聖王家に仕えしもの
遊ぶだけ遊んで満足するとダー君はクリスティナに手を振り、一足先に帰っていった。
「また遊ぼうね。次は山猫と蛇も呼ぼうよ」
それには誰ひとりお返事をしなかった。お姉さんに許可をえないでお家が獣の園みたいになっちゃうのは、大丈夫なのか。
毛並みもよれてお疲れ気味に見えるはうるちゃんに、せめてもとお水を出してあげる。もちろんぴぃちゃんにも。
ふたり仲良く並んでひと息つくのは珍しい光景だ。
ダー君の出現によりぴぃちゃんとはうるちゃんに連帯感のようなものが生まれたような気がしないでもない。
「お水のおかわりいる? はうるちゃん」
「ふう、頼むわ」
「はい。ぴぃちゃんもね」
飲まなくても気分だけ。
落ち着いたところで、はうるちゃんからダー君との関係を聞く。
驚いたことにダー君は守護獣のコウモリだそう。可愛い男の子にしか見えないのに、コウモリとは意外。
「はうるちゃんよりダー君が偉い?」
「偉いって考えはヒトのもんで、俺等には上も下もない」
ええ? いつも、はうるちゃんの方がぴぃちゃんより偉そうにしてるのに。
クリスティナが今日見た限りではダー君の言うことは絶対で、海獣役にされたはうるちゃんは、繰り返し討伐されていたので、てっきり偉いのはダー君かと思った。
「仕方ねえだろ。子供は言い出したら聞きゃしない。ダーがタチ悪いのは、いつまでたっても成長しないことだよな」
やっぱりはうるちゃんよりダー君が強いんじゃない。と言いたいけれど、狼の自尊心に関わる問題かもしれないので、下手な刺激は控えよう。
「なんでまたダーがここんちに?」
「最近フレイヤお姉さんと知り合いになったの。これからは、お姉さんにお手紙届けにくるんだって」
言葉の終わらないうちから狼の金眼が深みを帯び、すっと表情が変わった。
「絶えたと思ってたが、いるのか。まだ王家が存続してるってことか」
「王家が?」
「ダーを使えるのは聖王家だけだ」
厳かに告げる隣りで、ぴぃちゃんもこの上なく賢そうな顔つきでコクリとする。
「せいおうけって、なんだっけ?」
聞き慣れない国だ。なくなってしまった国の王家の子孫は、単なる平民にすぎないのでは。
クリスティナの疑問に、守護獣達は普段見せない顔をする。
「ヒトの国や国境は関係ねえ。聖王家は聖王家。支える四家が続くこと、それが俺等の願いだ。ルウェリンがなくなると、俺はただの狼になっちまう」
ただの狼とおっしゃいますが、はうるちゃん。おしゃべりが出来る出没自在の狼なんて、そうはいないでしょ。
「ぴぃちゃんも同じなの?」
ハートリーに攻められてマクギリスの城砦がなくなって、ただの鳥さんになっちゃったから私といる?
クリスティナが心配したと思ったのか「好きです、好き好き」のダンスを踊ってくれる。動きがこの上なく控えめなのは、はうるちゃんに構われるのが嫌だから。
「四家が揺らいだせいで、動きだしたな」
哲学者めいた顔ではうるちゃんが誰にともなく言う。
クリスティナは哲学者に会ったことがないので、想像だ。
動き出した、
「なにが?」
しいて言うなら、と前置きして、はうるちゃんは瞳を閉じた。
「聖王家の『時』が」




