妖精が侍女になり海賊となる
背中に透け透けの羽をつけた妖精の役と聞いたのに、もらった台本では侍女。
最初の台本は回収され、お話が大幅に変わりましたと別の台本が届いた。
読むうちにクリスティナの頭には疑問符がいくつも浮かぶ。
侍女は戦ったりしないはずなのに剣を振り回すし、王子様が囚われているのは船で、戦う相手は海賊。
なぜ、なぜなの。
「フレイヤお姉さん、台本ってこんなに変わるもの?」
衣装合わせに付き添ってくれたフレイヤお姉さんに、クリスティナは小声で聞いた。
「使わなくなった船を譲り受けたんですって。今後、本物の舞台でも演目に海賊ものを加える予定らしいわ。いい機会だから先に子供劇で観客の反応を見たいという意見が劇場関係者から出て、がらっと別物になったのよ」
なんと、大人の勝手な都合だった。
そして一番の見せ場となる甲板での乱闘シーンが作られたのは、レイのせい。
レイはルウェリン領から戻った日に、劇の稽古に来ていたクリスティナを迎えに来て、イヴリンさんとご挨拶した。
話の流れから「お世辞抜きで逞しくて素敵な体つき。舞台映えすること間違いなしだから、試しに舞台に立ってみないか」とイヴリンさんに迫られて、「あまり目立つことは」とお断りした。
諦めないイヴリンさんに「では、せめて子供劇の剣を振るう場面の助言だけでもいただけないか」と食い下がられて断りきれず引き受けたところ、海賊役の男の子達が大喜び。
そんなこんなで勇敢なお姫様の物語が冒険活劇に変わってしまったのだ。
「まあ、ティナちゃん。男装がよく似合うわ! いつもとは立ち方から違うみたい」
褒め言葉を聞くクリスティナの気持ちは微妙。
頭に巻いた海賊っぽい布以外はほぼ山賊の子だった時の格好だ。全然珍しくない、気分も上がらないのに褒められるとちょっと嬉しくなっちゃうのが情けない。
「詳しくは見てのお楽しみと言われたけれど、ティナちゃんの見せ場の連続だってイヴリンから聞いたわ。楽しみね」
私なんて数合わせの動物役だったから、と笑うフレイヤお姉さんは「見せ場」の意味を知らないのだ。
剣は動きを決めて振るうから、練習をすれば危なくない。
しかし甲板のあちこちで皆が違う動きをするので、視線が分散され迫力が失われるらしい。
そこで身の軽いクリスティナの登場だ。網を伝って帆柱にのぼり、垂れたロープで甲板に降りる。
お客さんから見えない所で急ぎ巻きスカートを身につけて、今度は侍女役として樽から樽へ飛び移り剣で海賊を倒す。
最後は再びの海賊役で空中で体を半分ひねりながら海に落ちる。
クリスティナはケガの心配のある見せ場担当。
フレイヤお姉さんに言えばイヴリンさんに猛抗議するか「出なくていい!」と言い出しかねない。
ちょっとやってみたいクリスティナと、今までにない子供劇にしたいイヴリンさん、お姉さんに叱られたくないレイの意見が合意をみて「内緒にしよう、そうしよう」となった。
当日のフレイヤお姉さんの反応が楽しみで、ドキドキする。




