アンディとシャーメイン
母がお茶会に出掛ける時には、妹シャーメインをナニーティールームに預けることがある。
学校帰りに迎えに行くのは兄であるアンディの役目だ。今も、級友と別れカフェへと向かう途中。
クリスと思いがけない再会を果たしたのは、忘れもしない前回。
まさか、妹と同じテーブルでお茶を飲んでいた女の子がクリスだなんて。
心底驚いたけれど、クリスも同じくらい驚いていた。
髪が伸びて、男の子と見間違えることはないくらい女の子らしくなっていた。
顔がかわいいのは前から。山にいる頃は外見にかまわないない感じだったけれど。
再会を喜んでくれたのに、素直に喜べなかった。「驚いてしまって」と言い訳したいところだが、違う。
シャーメインの前で山の話をしたくなかった。
働かせて欲しいと頭を下げて頼み込んだのに、女の子を置き去りにしてひとり逃げ出した情けない自分を忘れてしまいたかった。
実際、ちょっとしたことが切っ掛けとなり思い出すと、意気地なしの軟弱な自分が恥ずかしくて叫びたくなる。
あわせる顔なんてないと思っていた。
「クリスが困ったら逃げ場を提供できるような人になる」と言ったことを忘れてはいない。
クリスは「ひとりで逃げる甘ちゃんが大口たたいて」と、内心では笑っていたに決まっている。そう思えば、冷や汗が出てくる。
クリスが王都にいるということは、おっかさんとオヤジも一緒だ。
帰って「アンディが恩知らずな真似をした」と話す様子が目に浮かぶ。
おふたりはどう感じただろう、少なくともいい気はしないはずだ。笑うのではなく腹を立てたかもしれない。
そう考えると、頭を抱えて髪を掻きむしりたい気持ちになる。
アンディが考えながら歩くうちに店はすぐそこに。窓に近い席で人待ち顔をしている妹シャーメインと視線が合った。
「待たせてごめん」
片手を上げたアンディに、シャーメインがあからさまにがっかりする。
迎えが母でなく兄だと聞いたはずだけど、忘れたのか。
顔なじみの店の人に「妹を迎えに来ました」と告げ、テーブルまで行く。
「今日もおいしかった?」
聞きながら、預けていたコートを着せるために手もとで広げる。
「いつもよりたくさんあったの。あの子もくればよかったのに」
シャーメインがぽつりと言う。
「あの子?」
「クリスチナ」
分かるだろうと言わんばかりの妹の態度に、アンディのほうがドキリとする。
「知り合い?」
「いっしょにお茶をしたから、お友達」
なんだ、それ。女の子同士は一度同席したらお友達というルールがあるのか。
アンディの頭がくらくらしていることなどおかまいなしの妹は、しょんぼりとしている。
「いっしょに食べたかったケーキがあるのに」
きっとまた会えるよ、とか。お店の人に伝言をお願いしたらどうだろう、とか。次には会えるといいね、とか。
かけるべき言葉はいくつでも思いつくのに、口から出たのは。
「今日は帰ろう、シャーメイン」




