ぴぃちゃんと幼児・2
フレイヤお姉さんがお膝にダー君をのせ、クリスティナはお膝にぴぃちゃんをのせる。
ぴぃちゃんの姿はテーブルより低いので、ダー君から隠れる形になる。クリスティナの膝にぴぃちゃんの安心が伝わった。
ダー君はテーブル越しにクリスティナに愛想よく笑いかける間もフレイヤの人差し指をにぎにぎすることを忘れない。全方向に可愛さを伝える所存らしい。
フレイヤとクリスティナの視線が合い、同じタイミングで小さく息を吐く。
「お姉さん、私の鳥さんはぴぃちゃん。その男の子は?」
お姉さんに見えないはずのぴぃちゃんが今日に限り見えているのは、この金髪がキラキラしたすごく可愛い男の子が関係している、きっと。
「ティナちゃんにご挨拶して」
「こんにちは、ダーだよ」
「かわいいっ」
小首を傾げてくりくりの目でこちらを見るお顔は、可愛いの塊。
思わず言ったクリスティナの足を、ぴぃちゃんがくちばしで突つく。
ごめん、ぴぃちゃん。ぴぃちゃんも可愛いよの気持ちを込めて背中を撫でたけれど、恨めしそうにクリスティナを見上げる。
ん? 「だまされちゃダメです、ダメ」と言っているような気がするけれど、きっと読み違えだ。
「ティナちゃんの鳥さんは『ぴぃちゃん』というお名前なのね。ぴったりのお名前ね」
「うん」
「ぴぃと言ってたのは、独り言じゃなかったのね」とお姉さんが納得している。
こっそりぴぃちゃんを呼んでいるつもりが隠せていなかったみたい。
フレイヤお姉さんが、ダー君に尋ねる。
「それでダー君、今日はどうしたの?」
「元妃のおうちを見に来たよ。そしたら鳥がいたのよ」
ぴぃちゃんが固まった。どうやら話題にもされたくないらしい。はうるちゃんの時と同じくらいかそれ以上に嫌そうにしている。
みんなに好かれる鳥さんで良かったと前向きに取るべきか、お気の毒にと慰めるべきか。
「鳥さんは、触られたくないみたいだったでしょう。嫌がることをしてはダメ」
「もうしないよ。でもダーはさわってくれるのうれしいよ」
ぷくっとした唇が可愛く尖る。
「ダー君ももうしないと言っているから、許してあげてくれる? 子供は加減が下手だからぎゅっと掴むでしょう。ぴぃちゃんはそれが嫌だったのね」
というより、ぴぃちゃんはダー君自体を嫌がっていそうに思えたけれど。本人を前にしてそれは聞けない。
「お姉さんのこと、もとひって呼ぶのはどうして?」
お姉さんの手がダー君のお口を覆う。
「小さな子には『フレイヤ』が発音しにくいからよ。ティナちゃんのぴぃちゃんは、いつも家にいるの?」
「呼ぶと来る」
「呼んだ時だけなの。ダー君みたいに自由に出入りはしないのね」
ちょっと羨ましそう。はうるちゃんは呼ばなくても勝手に来ちゃうし、おしゃべりもできちゃう。
お姉さんにそう言ったらショックを受けそうだ。
色々なものが知らないところで自由におうちに出入りしていたら、嫌だもんね。
こんな時には出てきそうなはうるちゃんなのに「面白いことになってんな」と言ってこないのは、レイが王都から離れているせい。
そこはよかったと心から思う。
クリスティナにひらめきが起こった。
「お姉さん、ダー君は前からの仲良し?」
「いいえ。出会ったのはつい最近よ」
ダー君は唇を覆っていたお姉さんの手をちゅっちゅしていたらしい。
お姉さんが、外した手をさりげなくテーブルナプキンで拭うのをクリスティナは見逃さなかった。
やっぱり。フレイヤお姉さんの愁い顔の原因は、この男の子だ。
ダー君はクリスティナの考えを見透かしたかのように、くすりと笑った。




