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フレイヤの頭痛

ジョナサンとは書斎で別れた。別れ際。


「古風な礼をとろうか、フレイヤ。私がこれをするのは君にだけ」


 流れるような仕草でフレイヤの右手を取ると、手の甲に唇を軽く押し当てた。


 頬への口づけは、同性異性を問わず親しい仲ではあることだけれど、これは絵で見たことがあるだけ。


 まさか自分が体験するとは思わず動揺のあまり声がうわずった。


「ジョ、ジョナサン」


 唇が触れたのは一瞬のこと。うやうやしく持ち上げた指をそっと離すと、ジョナサンはそれも決まりであるかのように微笑する。


「これで、君が私にとって大切な女の子だとダミアンは理解しただろう。君の言うことも聞くはずだ、ダミアンの分かる範囲なら。また会おう、フレイヤ」



 ああもう、いろんなことが起こりすぎ。現実味のないまま、フレイヤは叔父の家を出た。







 書斎の窓からジョナサンが見送っているかもしれないと思うと、後ろ姿にも気を抜けない。

馬車に乗る頃には、すっかり疲れていた。


「叔父上に会うというのは、それほど消耗するものですか?」


 レイの疑問は当然のこと。フレイヤだってまさかこんなに疲れるとは思ってもみなかった。



「叔父はあいにく留守でした」


 叙爵とお城の部屋について聞いてくると言っておいて答えられない。叔父に会ったというのは無理がある。


 じゃあ何をしていたのかと聞かれる前に、自分から話すことにする。



「叔父の古いお友達がいらしていて、ずっと昔話をね」

「それは気疲れしそうだ。もっと早く迎えに行けばよかった」



 真っ赤な嘘ではないと心のなかで言い訳をしても、後ろめたい気持ちになる。


 家に戻るまでに顔から疲れを引き剥がして、気分を上げて玄関に入らなくては、ティナちゃん達にも気を遣わせてしまう。



 今日の夕食は、ジェシカさんの作る焼き鴨の蜂蜜と赤ワインソース添えだ。

デザートはティナちゃんの作ったバターケーキ。どちらも楽しみにして美味しく食べたい。



「せめて家に着くまで休んではどうですか」

レイが自分の肩をとんとんとした。

「貸しますよ、俺の肩」


 爽やかに誘う笑顔が少年っぽい。レイさんの肩を借りてダー君とその主について考えるのは、許されるのだろうか。フレイヤは曖昧な笑みでやり過ごした。



「レイさん、騎士四家物語に王様は出てくるかどうか、ご存知?」

「当然出てきます。騎士とは主人や雇い先があって成り立つ職業ですから」


即答だった。


「ルウェリン城にたなびいていた旗には狼が描いてあったでしょう。王様にもお決まりが?」

「コウモリです。夜と昼、鳥と獣を行き来する特別な生き物」


 

 どっちつかずと貶めるのではなくそういう取り方なのね、と感じいる。ダー君が尊ばれているなら、なによりだ。


 レイさんも同じことを言うなら、疑う余地はない。王家とダー君とジョナサンはセット。


 

「おかしなことを聞いていたらごめんなさい。レイさんにはルウェリン家を守護する狼が見えるのかしら」


ちらり、とレイが横目にフレイヤを見る。


「俺は当主ではないので。ラングの前には姿を現すと思います」



 ダー君が私にも見えるのは、ジョナサンが紹介してくれたから。なんとなく様子が分かってきた。 


「どうして急に、そんなことを?」


 聞かれてフレイヤは後悔した。うかつなことに、理由を考えていなかった。疲れた頭では急に思いつきもしない。


「どうしてでしょうね。あ、頭痛が」


 急に頭痛が、と額を押さえるフレイヤの芝居は子供劇より低レベル。


「大丈夫ですか」と聞くにとどめてくれたレイに感謝しつつ、これ以上のボロを出さないようフレイヤは口と目を閉じた。



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