王と王妃とダミアン
ダー君とジョナサンのやり取りが面白い。
ダー君は長い会話が苦手らしいのに(小さな子だから当然か)ジョナサンは一切考慮しないので、フレイヤの見たところ、ダー君は「うふふ」や「くすっ」で済ませている。
ダー君はジョナサンと人生を共にしていたのではなく、お宝ハンターから埋蔵金を守りつつ、何がどれくらいあるかを数えて過ごしていたらしい。「数えるたびに数が違った」と教えてくれる。
そして掘り出したジョナサンと出会った。
「何百年も数えていたの?」
「『何百年』は関係ないダーだよ」
「見た目に騙されるてはいけない、フレイヤ。ダミアンは超高齢なんだ」
「違うよ!王。ダーはダーだよ」
ああ、話がすすまない。そして文句をたれる時のぷうっとした頬の丸さがたまらない。
初対面で「触らせて」はダメだから、仲良くなったらお膝に乗せて頬をすりすりさせてもらう。フレイヤは固く決意した。
「ダミアンがいると、時間がとけてしまう。本当に変な力を使ってないだろうな」
ジョナサンの苦情に、ダミアンが眉尻を下げる。
「ダーが可愛くてごめんなさいだよ、王」
その上目遣いになった時の瞳の大きさときらめき。反則じゃない?
「王妃さま。可愛いダーを許してね」
今度は私! フレイヤの心は一瞬にして射抜かれた。
「許す、許します。むしろ讃えます。うちにも遊びに来てダー君、可愛い女の子がいるから」
ダミアンが目を輝かせた瞬間、姿が消えた。現れた時と同じようにいきなりだ。
「あらっ!」
「軽々しく誘うものではないよ、フレイヤ。これでダミアンは君の家に行けるようになってしまった」
ジョナサンが渋い顔をしている。彼が姿を見えないようにしてしまったらしい。でも。
「お手紙を届けてくれるなら、どのみち家には来るのでしょ」
「私の招待より、ダミアンの招待が先なのはいかがなものか」
まさに正論。ご主人より先に使用人を招くなんて、あるまじきことでした。
大人になってもこうしてジョナサンに叱られるとは、と思うと笑いが込み上げる。
「君は可愛いものが好きだから、こうなると思っていた」
諦めの色が滲む。そして窓の外、通りを目で示す。
「お迎えが着いたようだ」
来た時と同じ屋根のない馬車が停まった。手綱を握る屈強な男性はレイさん。
「体格といい姿勢といい彼は申し分ないね。ルウェリンは昔から忠義の家で、義理堅いんだ。まさかダニエルが君をあの地方に行かせるとは思いもよらなかったが、これも巡り合わせなのだろうね」
そういうものかもしれない、と思う。気付かずに過ぎることのなかにも巡り合わせはあるのだろう、きっと。
人生の辻褄がすべて合うなどと思わないくらいには、フレイヤも大人になった。
「ティナ嬢と君は、これからどうするの?」
ティナちゃんの望みを優先して、自分が後見人となりナニースクールに入れるつもりだと、説明する。
マイルス氏については、近寄らないようにするだけだ。
「時間はかかるだろうけど、ティナ嬢の置かれた立場については私が調べよう。さしあたり君達の身の安全は、ルウェリンを身近におけば図れる」
ルウェリン様のご長男を護衛のように扱うなんてさすがは「王」。でもレイさんは「王」を知らないし、今さら王など認めないと思う。すべては言葉の遊び。
世が世ならフレイヤは「王妃」。もっとも世が世ならジョナサンと出会ってはいない。つくづく不思議なものだ。




