レイに送られてジョナサンに会う
馬車が必要な時、普段のフレイヤは大通りまで出てひろう。
今日はレイが洒落たふたり乗りの馬車を借りてきたうえ、御者をして叔父の家まで送ってくれるという。
よく貸してくれる人がいたと思ったら、職探し中に親しくなった商会が所有するものだそう。
慎重に選ぶから仕事が決まらないだけで、彼は引く手あまたなのだろう。
夕食は叔父の家から帰ってとることにした。
「昨日作ったバタークリームのケーキは一日おいた今日がおいしいので、どうしてもお姉さんに食べて欲しい」と、可愛いティナちゃんに熱心に訴えられて断れるわけがない。
叔父の家には泊まらず帰ることにする。
せっかくジェシカさんが来ているのに付き合わせて申し訳ないと伝えるフレイヤに、レイは「男共は日中不在が普通でしたから」あのふたりにとっては俺がいない方がいいのだと言う。
「今日は注目を浴びるな」
それはフレイヤも感じていた。洒落た馬車を走らせるのが堂々とした体躯のハンサムとくれば目立つに決まっているのに、本人が分かっていないらしい。
「みんなレイさんを見てるのよ」
レイが笑い飛ばす。
「なにを。フレイヤさんが綺麗だからでしょう。今日は一段と綺麗だ」
言われてギクリとする。年明けのご挨拶にふさわしい服を着てきただけ、別にジョナサンを意識したのではない。
と、服を選んでいる時から言い訳のように唱えていたのを見透かされたようで、居心地が悪い。
「……ありがとう。レイさんも素敵です」
そこからはしばらく無言となった。
その角を曲がると叔父の家までは真っ直ぐ、と道案内をしたフレイヤに。
「叔父上に会うのは、そこまで緊張することですか」
レイが尋ねたのは何気なくだろうけれど、これまたフレイヤをギクリとさせる。
「不義理に不義理を重ねて会いづらくしてしまったから。本来は会って話すことも手紙で済ませてしまったし」
ラング様についての報告も、叔父から「充分な内容だ」と返信があったのをいいことに、そのままにしてしまっている。
レイさんが王都にいるのは、この先叙爵の流れについて早く知りたいから。
地方にいて手紙での質疑応答は、時間がかかりすぎるし、食い違いもおきそうだ。
「叙爵の件と、城に賜っているお部屋の扱いについて、聞けるだけ聞いてきますね」
送ってくれてありがとうに言い添えて馬車を降りようとすると、引き止められた。
「やはり迎えに来ます」
帰りの時間がはっきりしないので、叔父の家に馬車を呼んで帰る予定にしていたのに、なぜか急に迎えに来ると言い出す。
「『迎えが来た』と言えば、失礼しやすいでしょう」
「でも、レイさんの一日を潰してしまうわ」
「構いません、あなたの為なら喜んで」
そんなに良い顔をされてはこれ以上の遠慮はし辛い。
ジョナサンと会ってレイさんに迎えを頼むのは心苦しいけれど、うまく断るのは難しそう。
「ありがとう。助かります」
もごもごと礼を言い、フレイヤは馬車を降りた。
一旦離れるレイを見送ろうと思うのに、見送るのはこっちだとレイが譲らない。
こんなところもジョナサンに見られているかと思いながら、叔父の家の呼び鈴を引いた。




