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ゆく年くる年・1

 大量の花にフレイヤお姉さんが驚いてくれたので、クリスティナは大満足。


 

 明日は花屋も休みになる、今年のうちに売り切ってしまいたかったらしく「これはお金はいらないから持って行って」と、どんどん増えてしまったのだとレイは説明した。



 そして別に一輪、特別に紅い開きかけの薔薇を差し出す。


「俺の気持ちです。今年の感謝と来る年も宜しくの気持ちを込めて」



 花束越しの覗き見。自分がもらう側になったようにドキドキしていたクリスティナは「え、違う」と口にしそうになった。

「好きです」と言うと思っていたのだ。レイってレイって……肝心なところでダメかも。



「ありがとうございます。すごく綺麗」


 まるで高価な品のように恭しく薔薇を手に取り眺めるフレイヤお姉さんに、レイが見惚れている。

だから、そんなに好きなら早く「好き」って言えばいいのに。


 レイはジェシカ母さんが「まともだ」と認める男、フレイヤお姉さんは優しくて美人さん。

どうしてふたりが恋人同士にならないのか、クリスティナにはとても不思議。



「お姉さん、レイのお花と私のお花、どっちが嬉しい?」


意地悪を言えば、レイが呆れ顔をする。


「おいおい、その花も支払いは俺だが?」


 軽やかに笑ったお姉さんが薔薇を棚に置いて、クリスティナから花を受け取る。



「重たいのにありがとう。お花を抱えたティナちゃんが可愛い過ぎて、ティナちゃんごと飾りたいくらい」

「お姉さん、大好き」

「私もティナちゃんが大好きよ」



 ちゃんと聞いていた? レイ。こうやるんだからね。

教えてあげたつもりのクリスティナと視線を合わせたレイは、大げさに首をすくめて「降参」とした。








 お手伝いさんは「今日はこれで」と早めに引き上げ、三人でテーブルを囲む。

 鴨のローストは、ジェシカ母さんの作るほうが美味しい。母さんと会ったら、お姉さんのためにお料理してくれるよう頼もうと決める。



「イヴリンに会った? イヴリンがどうしてお城に?」


 レイの説明は簡単なのに、フレイヤお姉さんの理解は早かった。


「園遊会の子供劇ね。私も昔出たわ」

「なに役で?」


 綺麗なお姫様の役かな。

大人の会話に口を挟むのは禁止なのについ質問したクリスティナを叱ることなく、フレイヤお姉さんがいたずらっぽい目をする。


「聞きたい?」

「うん」

「一度目はアヒルのうちの一羽で、二度目は白鳥のうちの一羽だった」


 ただの数合わせよ。お姉さんは可笑しそうにした。


 

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