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思い出の一夜・1

 レイとクリスティナが出かけた後、気心の知れたお手伝いさんに料理を任せて、フレイヤは新年らしい飾りを棚にほどこしていた。


 可愛いお人形や小さな花束を模したキャンディ。

実は「来客があるわけでもなし、出してもどうせすぐに片付けるから季節のしつらいは省略しよう」と思っていた。



 これは、いつも「お姉さんのおうち可愛い。大好き」と言ってくれるティナちゃんのために飾っているのだ


 キラキラした眼差しを惜しげなく向けられては、見栄のひとつも張りたくなるというもの。


 「新年を祝うために王都ではこんな感じに飾るのよ」と、さも毎年やってますよという風に、今年買った品々を店の飾り方を真似て並べている。


 レイさんは気がつくかもしれないが、素知らぬ顔をしてくれるはずだ。




「お花は持って帰ってくれるから、ティナちゃんと一緒に飾れば楽しいわね」


 ティナちゃんはお花に詳しくて、山荘では、怪我をして外に出られないフレイヤのために、虫もなんのそのせっせと花を摘んでプレゼントしてくれた。


 私が虫を苦手としていると気がついて、ティナちゃんに内緒で探して取り除いてくれたレイさんには、感謝してもしきれない。



 そうレイさん。

空き部屋に入れた寝台は、もう彼専用のようになっている。

狭い家で他人と暮らすのは気を遣うものだけれど、彼がいても疲れないのは、出会いから情けない姿を見せたせいだろう。


 手を借りなければ階段ひとつ降りられないなんて、絶望的だったもの。

フレイヤはひとり苦笑した。


 ソックスに覆われていている甲にはまだ罠の跡が残っているけれど、嫁入りの前の娘でもなし、気にしていない。



 彼が自分に好意を持っているのは知っている、これはうぬぼれではなく。


 未婚の頃より未亡人になってからのほうが、お誘いを受けることが増えた。遊び相手としてだ。本気の遊びだってある、好意の質を見極めるのは難しい。




 山荘で彼とふたりきりになった夜が一晩だけあった。


 静けさが緊張を招き、落ち着かなかった。

ルウェリン様のご長男だから、ご無理はおっしゃらないだろうと思いながら、一夜の相手を望まれたら断れないとも考えていた。


 助けたばかりか山荘に置いてくれているのは、元から知っているティナちゃんのためであって、自分は余計なお荷物だと自覚していた。



 彼が作った料理を食べながら、暗い森でひとり過ごすティナちゃんの心配をしていると、察した彼が微笑した。


「クリスは野宿の経験があります。心配には及びませんよ」


 安心させてくれる。でも、わからないじゃないですか、そんなこと。


「どうして、言い切れますの」

「この山でルウェリンに尽くしているクリスは、守護されますから」


 自信のある口ぶりはどこまで本心だろうかと、瞳を探る。姿が映りそうなほど黒い瞳に、フレイヤは見入ってしまった。


 

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