クリスティナ王城へ行く・3
極力おとなしくしていたのに、従姉妹さんと目が合う。
「こちらは、マードック様のお嬢さん?」
なんてこと言うの、このお姉さん。クリスティナはまた驚いたのに、レイはいたって普通に。
「いえ、恩人の子です。学齢になるので王都の学校に通わせたいという意向があり、預かっています」
なるほど、そう言えばいいのかとクリスティナは感心した。フレイヤお姉さんの従姉妹も、説明に納得顔だ。
「お仕事中でしたか。あまりお邪魔をしては」
レイの視線の先には、落ち着かない様子の男性が会話の終わりを待っている。
「ええ、でも構いませんわ。ちょっと配役で揉めまして」
イブリンさんの態度から、男性より高い立場なのだと察する。
「配役、ですか」
会話を切りあげるつもりが続いてしまってもお付き合いするレイ。
「春の園遊会では、子供劇が恒例行事でございましょう? 毎年演目は似たようなものなんですけれど、配役から演出、演技指導まで当家が請け負っておりますの。その配役に保護者が口を挟むのは毎年頭が痛いことですわ」
「はあ」
「『うちの娘にぜひ姫の役を』と言われましても、王様より貫禄のあるお姫様はお姫様に見えませんでしょ。お金を積んでくださるのはありがたいし、もちろん断らずにいただくんですけれど。出来ることと出来ないことがね……と、このように困りごとの種は尽きませんの」
イヴリンさんがひとりで一気に話す。聞いているだけでとても面白い。
「ごめんなさいね、お嬢さん。大人のつまらない話を聞かせて」
子供のクリスティナにまで気を遣ってくれる、いい人だ。
「イヴリンさんは芸術家ですか」
質問すると花がほころぶような笑みが広がった。
「いいえ、私はどちらかと言えば興行主。芸術家に近いのは夫のほうね。私が芸術家に見えたの?」
うふふと笑う。ここは「はい」だと経験が教える。
「はい」
「まあ、可愛いだけでなくて利発なお嬢さんだこと!」
なんだろう、なんて返そう。
「恐縮です」
レイの真似をしたら笑みが大きくなった。フレイヤお姉さんとは違うタイプだけど、きっといい人だ。
「お嬢さん、お名前とお歳は?」
「クリスティナ、もうすぐ十歳です」
イヴリンさんの目が細くなった。
「目がはっきりしていて舞台映えする。それにしっかりしてらっしゃる、台詞覚えも良さそう」
最後に関しては見目では分からないと思う。
「十歳から子供劇にでられるのよ。クリスティナちゃん、出てみない? 脚本家に、見せ場のある妖精役かなにか増やすように言うわ。背中に透き通った羽を背負って……」
目を細めて両手で空に見えない羽を描く。イヴリンさんには妖精の羽が見えるのだろう、さすが芸術家。
「あまりの可愛さに、みんながひっくり返ること間違いなしよ」
それは褒めすぎ、それはない。




