クリスティナ王城へ行く・2
「なんにもない!」
叫んでしまったのは、許されたい。ひとりで来ていたらレイだって「なんだ、こりゃ」くらい言ったと思う。
「一度も使ってないか、片付けたか」
カーテンすらないので、部屋のなかはよく見える。家具も何もなく、壁の装飾だけが目立つさまはある意味清々しい。からっぽだ。
「せっかく来たのにね」
残念。クリスティナがレイを見上げると、レイは平然としていた。
「実はガラクタ置き場になっていても仕方ないと覚悟していた。何もないなら、かえってそのほうがいい」
「そういうもの?」
「ああ、そういうものだ」
レイががっかりしていないのなら、これでいいのだろう。私はとてもがっかりしたけれど。
「フェリーさんも、がっかりしないかな」
「片付けから始めるより楽だから喜ぶんじゃないか」
目的は果たしたから帰るか、となるのは早かった。
来た時とは違う順路にしようというレイの提案で、遠回りして帰ることにする。
手を繋いで廊下を行く。広いから並んで歩いても平気。
柱や天井に模様が彫ってあるだけでなく絵まで描かれていて、最初は「うわあ」と圧倒されたけれど、落ち着いてくるとフレイヤお姉さんのお家のほうが素敵に思える。
「今さらなの? お姫様役ばかりで舞台が成り立つわけないじゃないの。そんなことも分からないで『出たい、出たい』って騒いだわけ? ふざけるのもいい加減にして欲しいわね」
激しく罵る声が響いた。反射的に見れば、お洒落な服を着た綺麗な女の人が、男の人に詰め寄っている。
驚いたクリスティナが立ち止まったので、手を繋いでいたレイも当然足を止める。
「ん?」という顔をしたレイに、小声で「びっくりしたね」と言うと、聞こえたかのように女の人がこちらを向いた。頭の天辺からつま先までをチェックされて、クリスティナは慌てて目をそらした。
「あらあ、レイ・マードック様? 先日の夜会ではご挨拶もせず失礼いたしました。フレイヤの従姉妹のイヴリンですわ」
どうやら、レイの知り合いだったらしい。そしてフレイヤお姉さんの従姉妹と名乗っている。
さっきまでの怒りっぷりは嘘のように消え失せて、綺麗なお姉さんがそこにいた。
あまりの変わりようにあっけにとられるクリスティナと違い、レイは感じのよい笑みを浮かべて会釈する。
「こちらこそ、ご挨拶が遅れて失礼しました」
「素敵なコートですこと。着こなせる方はなかなかいらっしゃらないでしょうね」
「田舎者ですから、そのように褒められては恐縮します」
「まあ、ご謙遜を」
大人が話している間は、子供はじっとしているもの。クリスティナは息を詰めて会話の終わりを待った。




