フレイヤの後悔とレイの語り
「ごめんなさい、取り乱して。お話が途中になってしまったわ」
乱れたフレイヤの心は、両肩にのるレイの手のひらの重みと温かさのおかげで、次第に落ち着く。
マイルス・マクギリスなる人物のことで知ることがあれば、と質問したつもりが、思わぬ広がりかたをした。
口にするのも辛い体験を淡々と語り、大人の身勝手を仕方ないと肯定するクリスティナが衝撃的だった。
微笑を浮かべた時など、知らない子に見えたほどだ。
「ティナちゃんに悪いことをしたわ。話すことで、傷を深くしてしまったかもしれない」
美しく涙だけを流す技を持たないので、ぐずっと鼻をすする。目も鼻も真っ赤になっているだろう今、顔を見せたくないし、自分でも見たくない。
「クリスは、フレイヤさんが思うほど気にしてないように俺は思いますが」
そうかしら。レイさんが気楽に考えているだけじゃ?
「王都には石造りの建物が多い。堅牢で壊れにくく長持ちする」
レイが問わず語りを始めた。
「俺の実家も城砦も石造りですが、集落は木造がほとんどです。なぜだか分かりますか」
石工が少ない地域とか。それとも文化の違いだろうか。
「石造りは頑丈と言っても、壊そうと思えば壊せる。修復には金も時間もかかる。比べて木造は火を放たれたらひとたまりもないが、再建は比較的容易だ。それで俺の地元は木造ばかりです」
レイの手がフレイヤの肩から離れた。顔を伏せているから、温かみを惜しむ気持ちは隠せる。
「あの地域では森を焼かないことが不文律なんですよ。そこに敵が陣を張っていても森に火を放つことはしない。木がなくなっては戦後荒れた町村の復興は成り立ちませんからね」
彼の言いたいことは、なんとなく理解できた。「王都とは違う価値観で育ってきた」と受け止めればいいと言って。ぬくぬくと生きてきた私を、善しとしてくれる。
「――私の知っている世間はとても狭くて、常識だと思っているものも偏っているんだわ」
頭の芯がとても疲れたと訴えてくるのをなだめつつ答えを出した。
「誰もが皆そうです。俺も王都に暮らすのは初めてで、驚くことばかりだ。知ってますか、マクギリス領には姉御肌の逞しい女性しかいない」
真面目な口調で、突然おかしなことをおっしゃる。
「フレイヤさんが王都育ちで良かった。フレイヤさんに会って初めて俺にも恋心があると知ったので」
いきなり話が変わっています。思わず顔を上げると、手を伸ばせば届くところに魅力的な微笑みが。
頬の熱はすぐに耳まで到達する。フレイヤは慌てて顔を伏せた。




