エイベル様を思い出して
お姉さんを泣かせてしまったとオロオロするクリスティナに「あとは引き受けた、クリスは先に寝ろ」と、レイが言ってくれた。
どうしていいか分からなかったので、本当に助かった。寝室でぴぃちゃんに報告する。
クリスティナが着ているのは袖が段々のフリルになった寝間着。
夜しか着られない可愛い服の登場により、明日の服を着て寝る習慣は修正された。
寝台の上でぴぃちゃんをナデナデするのは大好きな時間だ。
「いつも可愛いね、ぴぃちゃん。ぴぃちゃんは私のこと好き? 」
ぴぃちゃんが「好き好き大好き」と胸を張ってダンスを披露してくれる。
なぜか鶏の動きに似ていることからクリスティナが密かに「コケコケダンス」と呼ぶダンスは、初めて会った階段で見せてくれたもの。
ぴぃちゃんも私もひとりで、これから仲良くしようとお約束した時に踊ってくれて。
その後、親切なお兄さんが助けてくれた。エイベル様のお友達かと思ったのに「違う」と言われた。
ということは、通りすがりに見知らぬ私を助けてくれたことになる。自分の身を守ることすら難しいのに、だ。
「ね、ぴぃちゃん。あれやっぱりエイベル様だったんじゃない?」
ぴぃちゃんは賢そうな瞳でクリスティナを見るだけだ。
エイベル様はシンシア様にするのと同じくらいクリスティナにも優しかった。
いつだったか言われたことがある。
「クリスティナが女の子で良かったよ。男の子だったら僕に追いつけ追い越せと言われて大変だっただろうから」
「誰に言われる」と聞かなくても母を指していると分かった。
「クリスティナには特に厳しいからね」
あれが、お母さんは厳しいんだと知った最初だったような気がする。
「どうしてそんな辛い目に」と言うなら、伯爵様のご家族みんなだ。
大人には理由が色々あるけれど、子供は巻き込まれる他はない。エイベル様シンシアお嬢様を含めて。
いつの間にか祈りの形に手を組んだクリスティナの膝に、ぴぃちゃんが乗る。
そうすると安心すると知っているのだろう。
王都はこれまでクリスティナが見てきた町と何もかもが違って、同じ国とは思えない。建物は大人の言葉で言うなら「歴史を感じさせる」。
王都の子だったアンディにとって、クリスティナの育った場所は野蛮な土地に思えたはず。
「アンディもね……」
その先になにを言いたいのか、クリスティナにも分からなかった。
「寝よっか、ぴぃちゃん。知ってた? 明日で今年が最後だよ」
レイは上手にお姉さんを慰められたかな。
ぴぃちゃんに「またね」を言いながら、クリスティナは気がかりに思った。




