小さなクリスティナのこと・2
「それで、城砦が『混乱状態』になった時、ティナちゃんはどうしたの?」
混乱状態と言い表すのは、お姉さんが分かってないんじゃなくて、嫌な気持ちを少しでも軽くしてくれようと思っていることが、クリスティナには理解できる。
小さく息を吐いてから、話し出す。
「奥様とお嬢様と母と私、四人でお部屋に隠れてた。外がどうなっているか教えに来てくれた人も来なくなって、怖くてお部屋から出られなくなった」
レイのこんなに厳しい顔は初めて見る。
「私にできることは何でもしたかったけど……そんなのなんにもなかった」
フレイヤお姉さんが口を両手で覆う。
大丈夫、そんなに心配しなくても泣いたりしない、安心して。笑ってみせたのに、どうしてお姉さんが泣きそうなお顔になるんだろう。
「ジェシカさんに会ったのは、その後か」
お話がずいぶん飛んでしまうのはいいのかな、レイに目で問えば。
「その時には、ひとりだったと聞いた」
飛ばしていいということなのだろう。
「母は奥様に『ここにいてもダメだから、逃げましょう』と言ったの。でも奥様は『行けない』と断って、母にお嬢様を託したの」
「――ティナちゃんは?」
お姉さんの声が掠れる。そんなに心配しないで、昔のことだから。
「子供をふたりも連れて逃げるのは難しい。……仕方ない」
それに、母さんとシンシアお嬢様が助かったかどうかも分からない。
生きていると信じたいけれど、あの通路が本当にどこかへ通じていたのかどうか、少し大きくなったクリスティナには疑う気持ちも出てきた。
「ごめんなさい、ティナちゃん。もういいわ、もういいの」
「まだジェシカ母さんと会うところまでお話ししてない」
そこが一番聞きたいところだと思うのに。
レイの手が伸びてクリスティナの頭を撫でる。ついでに肩をポンポンと優しく叩く。
「これ以上は、フレイヤさんが聞けないんだ」
お姉さんが? 見れば、いつの間にかお姉さんは口元だけでなく顔全体を両手で覆っていた。
「お姉さん、大丈夫?」
「どうして。どうしてティナちゃんがそんな辛い目にあわなきゃいけないの」
「私だけじゃない、みんなよ。もっと大変な人もたくさん」
戦った人、二度と会えない人。エイベル様の顔が浮かんだけれど、それは打ち消した。




