小さなクリスティナのこと・1
ジェシカ母さんが野郎どもにどこまで話しているのかを、クリスティナは知らない。だからこれからする話はレイにとっても初耳かもしれない。
ごくんと音がしそうな喉を懸命におさえて、なんでもないことのように話したい。
「母はメイジーという名前で、伯爵夫人にお仕えしていたの。シンシアお嬢様のお守り。シンシアお嬢様より先に私が生まれていたから、乳母になれたの」
聞いているふたりの反応を見る。お姉さんは変わらず、レイはあからさまに驚いている。ジェシカ母さんは話してなかったんだ。
「伯爵家の子守りをつとめる女性となると、きちんとしたお家の出身だと思うけれど、そうなるとティナちゃんのお父さまは準貴族でいらっしゃる?」
クリスティナは首を横に振った。
「違うと思う。母は『伯爵家が次の子をお望み』と知っていたから、私を生んだのですって」
「待って、ティナちゃん。お嬢様はティナちゃんより年下なんでしょう?」
お姉さんに続いてレイが「すごい賭けだな」と言い、横目で睨まれた。
「これは、下働きの人達が言ってたんだけど『たいした女』なの、母。『今回だめでも、また生めばいいと思ってる』って」
「乳の出る間に伯爵家に慶事がなければ、再度挑戦するか。ますます賭けじみている」
レイの言葉に、フレイヤお姉さんが盛大に顔をしかめる。「『乳』なんて言わないで」と思ったのか、さっき睨んだのにレイが「賭け」を繰り返したせいか。
クリスティナとしてはどれも気にならないのであるが。
「お父さまは、同じように城砦でお勤め? それともお母さまだけティナちゃんを連れて住み込みで?」
「聞いたことないから、知らない」
きょとんとするフレイヤ。
「俺は城砦勤めはしたことがないから、伝聞でしかないが」
なぜか、聞いた話と強調する。
「男女がひとつ所に暮らしていて女より男の数が多い。しかも騎士なんて直情的で押しも強い。婚姻関係のない色恋は普通なんだ。結果、父の定まらない子が生まれる。クリスティナだけでなくいくらでもいたろう、慣れているから子は疑問を持たない」
お姉さんがしばらく黙してからレイを見た。その目つき知ってる、時々ぴぃちゃんがはうるちゃんにするのだ。
「ケダモノ、ここにケダモノがいますよ」のあれ。
お姉さんがぴぃちゃんとそっくりで笑っちゃう。
「だから! 俺は城砦に勤めたことはないって、先に言ったのに。俺はその手の話に無関係です!」
レイの必死ぶりが可笑しかった。




