秘密を告白、になるのかな・2
「ご弟様?」
レイの上ずった声は質問形。「ご弟様」が聞き慣れなかったのかもしれない。
「そう、ご令弟様」
さらに変な顔になるのは、これでも分からないということか。レイは大人なのに。
フレイヤお姉さんは、ちゃんと理解してくれていそうなのに。
「弟御様」
レイが思わずといった感じで繰り返す。
「ティナちゃん、レイさんは意味は理解してるのよ。たぶんティナちゃんが『ご弟様』とか難しい言葉を知っていることに驚いたのだと思うわ」
私もびっくりしたもの。とフレイヤが言えば、レイが何度も頷く。
「ティナちゃんすごい」
「みんな知っていることでしょう」
あ、でもあれかな。オヤジが「大人になるといらないことは忘れる」と言っていたから、これもそのひとつかもしれない。
「なんで、弟の名前なんか知ってるんだ」
レイのつぶやきこそ、クリスティナには「なんで」だ。
お会いする機会がなかったとしても、伯爵様の近いお身内のお名前を存じなくてどうする。
「え、レイ知らなかったの?」
騎士四家のひとつルウェリン様ののご令息ともあろうお方が、同じ騎士四家であるマクギリス家の当主の弟君の名を記憶していないなんて。そっちのほうがびっくりですよ。
「ティナちゃん、言いたいことは分かるのよ。でも少しだけ手加減をお願いできると、嬉しいわ」
お姉さんが困ったお顔で笑う。美人さんは、困ったお顔もまたいい。別にレイに意地悪を言いたいわけではないクリスティナは、素直に頷いた。
「恥ずかしながら、私はレイさん以上にマクギリス伯爵家を知らないの。ティナちゃんが辛くなかったら、お名前を教えてくれる?」
もちろん。ずっと前のことだから、話しても泣いたりしない。
城砦での生活を思い出すのは絵本をめくるような感覚で、実感がないのだ。
「マクギリス伯爵閣下のお名前はニコラス様、伯爵夫人はネロリア様、ご子息エイベル様、ご息女シンシア様。ご令弟マイルス様は当時はお独り身で奥様はいらっしゃらなかった」
一度覚えたら忘れるようなものではないのに、ふたりがあっけにとられているのは、どういう訳だろう。
「ティナちゃん、すごい。すごいわ」
こんなことでと思っても、得意な気持ちでお鼻がぴくぴくしちゃいそう。そっと手で隠して。
「城砦にいる人は、それくらいみんな知ってたと思う」
さも当然だという顔をしてみせた。




