山賊の頭・1
そろそろオヤジが帰って来る。クリスティナはアンディと並んで狼煙台から山を見張っていた。
山賊の拠点はいくかあるのでオヤジは別の拠点にいることが多く、行き来はあるが日々の生活は別。
クリスティナのいるこの家は、ジェシカ母さんを頂点として畑仕事と狩りをする野郎どもが住んでいる。
クリスティナがジェシカ母さんに初めて会ったのは五歳の頃、場所は「兵隊さんのお食事を作る所」だった。
困って座っていた階段から運ばれて、食べ物のいい匂いがすると思いながら大人しくしていると、しばらくしてマントが取り払われた。
同時に「エイベル様」は走って行ってしまった。ありがとうも言えないうちに。
知らないおじさんが端っこに木箱を置いて座らせてくれて。女の人達が順番に来た。
「お嬢ちゃん、教えてくれる? お母さんの名前はメイジーじゃないかい」
最後に来た体の大きな女の人が聞いた。
「お母さんのお名前はメイジー」
やっぱりそうか、と何度も頷く女の人は「あたしはジェシカ。お母さんとは一緒に働いたことがある。さすが親子だね、口元がメイジーにそっくりだよ」と言いながら、クリスティナの頭を撫でた。
「よく生きてたね。もう心配はいらないよ」と言ってくれた。
食べ物をもらって、体を洗ってもらって、洗濯もしてもらって、誰か来たら調理台の下に隠れる。
そして仕事を辞めて帰るジェシカの手を握って、クリスティナも山へ来たのだった。
「向こうに土煙が見える」
アンディのいつもより緊張した声を聞きながら、示した指の先を見る。
「六人かな」
オヤジはたいてい野郎どもと一緒に馬で来る。伯爵様の飼っていた馬とは違う、脚の短いどっしりとした馬は山に強いらしい。
アンディは乗馬も少しできるようになったけれど、クリスティナのほうがまだ少しだけ上手。
「手を振ってる」
「オヤジだ! 行こう、アンディ」
ぶんぶんと大きく腕を振り返すクリスティナと違い、アンディは黙って見つめている。
ジェシカ母さんに教えなくちゃ。クリスティナは石段を駆け下りた。