舞踏会での遭遇・1
フレイヤがレイのために選んだ舞踏会。
主催は宝石商で、招待されているのは主に顧客と取引先。高位貴族は同じ日にあるもっと格の高い舞踏会に招かれているだろうから、これは気楽な集まりだ。
フレイヤは、知人である子爵夫人にあらかじめ話を通しておいた。
彼女の夫は社交的で顔が広い。レイを気に入れば様々な場所に誘ってくれることだろう。時の人や見目の良い人を伴うのは、彼らにとって気持ちのよいものだから。
紳士には紳士同士の付き合いがあり、そのあたりフレイヤでは難しい。
主催の宝石商と子爵と堂々とした態度で談笑しているレイは、対等な関係に見える。
夜会服を最後に着たのは忘れるほど前というのが嘘のような馴染みっぷりだ。
まずは良かった、とひと仕事終えた心地になった。
楽団の演奏に合わせて踊っている人々もいるが、年の終わりが近いこともあり挨拶目的の出席者が多い。夜会の掛け持ちをする多忙な方もいらっしゃりそうだ。
フレイヤがひとり腰掛けてあたりを眺めていても、ありがたいことに目立たない。
真新しい手袋をした手にグラスを持ち考えるのは、一昨日訪ねて来た紳士のこと。
ティナちゃんが「あのね」と切り出したのは、寝室に行ってからだった。
「レイがいないところでお話したほうがいいかと思って」と、年に似合わぬ気を回すところがティナちゃんらしい。
私を訪ねて来たのは特徴のない紳士だった。
背の高さは普通、顔も「鼻が大きい」とか「赤らんでいる」という特徴はなく、印象が薄かったようだ。
「どこにでもいそうな人。感じはすごく良かった」
思い当たるのは叔父。ただ叔父は必ず筆記具を持ち歩くから、訪ねて来たのは別の人だ。誰だろう。
当たる気がしないと思っていると、目の前に人が立った。
「帰っているなら知らせてくれればいいのに」
淑女は、勧めないうちから勝手に隣の椅子に座った。
胸元を広く開け鎖骨の美しさを存分に見せつけるドレスは、流行りではなく彼女の好みだ。
「久しぶり、イヴリン。来てたのね」
従姉妹のイヴリンだった。フレイヤが避けている叔父の娘で、現在は結婚して劇場支配人の妻となっている。
「こちら様には、接待でよく使っていただくの。だから季節毎にご挨拶を兼ねて顔を出しているわ」
納得の仕事絡みだった。支配人の妻ともなれば、夫の代理で出席する機会も多そうだ。
「ねえ、素敵な方とご一緒したわね。彼、注目の的だわ。後で紹介しなさいな」
好奇心いっぱいの瞳が見つめる先にいるのはレイ。
「彼、舞台に興味ないかしら」
「絶対にないと思うわ」
聞かなくても断定できた。




