不思議なお客さん・2
帽子を軽く持ち上げてクリスティナに挨拶をしたのは、帽子とお揃いのコートを着た紳士だった。
お歳はレイより上、オヤジと同じくらいに見える。背は高くも低くもなく、笑ったお顔は感じがいい。
週に二回来るお手伝いさんは女の人なので、これはお客さんだ。
「フレイヤ・スケリット夫人がこちらにお住まいと聞いたのですが、ご在宅かな?」
聞き取りやすい声だ。クリスティナは窓に少し隙間を作った。こうすれば私の声も届くと思う。
「お留守です。レイとお買い物に行ったから、しばらく戻りません」
紳士が浅く頷いた。フレイヤお姉さんのお知り合いが、訪ねて来たらしい。
「君達は?」
「お留守番です」
答えてから、お返事がずれているかもしれないと気がつく。
お姉さんはひとり暮らしのはずなのに、子供がいるのを不思議がっているのかもしれない。
「私は王都にお家がないから、置いてもらっているの」
「遠くから来たのだね。レイというのは男性?」
この紳士がお姉さんを好きなら、レイのライバル。
「レイは大人の男の人」
自分と違って大人であることを強調しておく。
男性の表情は変わらない。
「なかで待たせてもらうことは、できないのだろうね」
それはだめ。
「お手紙を預かるくらいなら、できるわ」
「あいにく……」と胸のあたりに手をやって「書くものを持ってきていない」
筆記具と紙を手渡すには扉を開けることになる。投げ落とすのは、ダメだろう。
「出直すのがいいと思う」
クリスティナの言葉に、男性は白い歯を見せた。
「しっかりしたお嬢さんだ。あなたなら立派に留守番が務まるね」
褒められて嬉しい。さっき考えなしに扉を開けようとしたことは、誰にも内緒。
紳士の目がクリスティナからそれた。
「鳥を飼っているの?」
「ぴぃちゃんのこと? ぴぃちゃんなら飼ってるんじゃなくて、お友達」
ぴくりとも動かず紳士を見つめるぴぃちゃんの背中を撫でる。今日も最高の手触りです。
「よく馴れているね」
「子供の頃から一緒にいるから」
「そう、子供の頃から。色々ありがとう、邪魔をしたね」
帽子のふちに手を添えて別れの挨拶をする。
「お姉さんに、どなたがいらしたって伝えたらいいの? お名前は」
紳士が目を細める。
「彼女には伝えても伝えなくても。君にお任せするよ、聡明なお嬢さん。君にとって世界が優しいものでありますように」
紳士は振り返ることなく通りに出ていった。すぐに人に紛れてどの背中が彼なのか分からなくなる。
ぴぃちゃんが、すりっとクリスティナに体を寄せる。
「不思議な人だったねえ」
ひとりと一羽は見えなくなった背中をしばらく見送っていた。




