大人の会話・2
今は脱いでいるが、先ほど窓から見た時のコートは、レイに良く似合っていた。
細身の男性では厚手の織物が重そうに見えるることがある。その点レイは肩の厚みがしっかりしているので、かちりとはまる感じになる。お世辞抜きで今まで会った誰より、冬物のコートが似合う。
紳士のコートとは肩で着るものなのだとフレイヤは再認識した。
レイさん、唇の形もいいのよね。王都では中性的な形が好かれるけれど、彫像のような形もいい。
フレイヤがそんなことを考えているなどと露知らず、リンゴ酒で唇を湿らせたレイが話し出す。
「始まりは、母の再婚を受け入れることができず家を飛び出したアンディが道端で倒れているところを、クリスが助けたこと」
「まあ、素敵」
フレイヤの的外れな反応は紳士的に聞き流された。
「ひとりでやっていくつもりで家を出ても、十やそこらでは難しいに決まっている。行き倒れで済んで良かったくらいだ」
仕事につけたとしても、十歳では使い潰されるか、怪しげな仕事に加担させられるかだ。
「見つけたのがクリスだったのも、運が良かった。大人ばかりより子供がいたほうがクリスのためにいいんじゃないか、ということで家に置くことにしたんです」
「ティナちゃんのご両親が、アンディ君の面倒をみたのね」
親切な方々だ。
「頭はなにも。基本、ジェシカさんに任せっぱなしなので」
アンディ少年が山暮らしに慣れた頃、地元治安部隊の「査察」が入り、アンディ少年とふたりでいたティナちゃんが彼に家に帰るよう勧めた……まで聞いて、フレイヤはぐすっと鼻をすすった。
ハンカチを渡してくれようとするので「持っています」とお断りして、自分のハンカチを使う。
泣かせたくせに。それに、殿方のハンカチで鼻を拭くなんてできるわけがない。それはちょっと目尻なんぞ押さえるものだ。
ひとりが苦手なティナちゃんがどんな思いで見送ったかと思うと涙が出る。――鼻からも。
「肩を抱いても?」
「お気持ちだけで。甘えたい気分にはなっていませんので」
これもすっぱりとお断りすると、彼が苦笑するのが分かった。
そんなことより、アンディ君が知らんぷりする理由をぜひとも聞かせて欲しい。
「あのティールームに来られるのは、それなりの家の子。今となっては家出をしたのも山賊の世話になったのも、なかったことにしたいんでしょう」
説明されればなるほどと思う。ただし、事情を理解するのと彼の行動に納得するのとは別の話だ。




