二十日大根と花占い・3
アンディが探しに行くと、クリスは裏の畑にいた。咲いている草花になにやら話しかけている。
しゃがんだ「ちんまり感」のある後ろ姿は、三つ下だとずいぶん子供なんだなとアンディに思わせた。
「はい、もう一回ね。好き、嫌い、好き、嫌い、好き。また『好き』でした。何回やっても『好き』すごい」
花びらのなくなったものを投げ捨て、次の花をぶちっと摘む。そしてまた「好き、嫌い」が始まった。
クリスの持つ黄色の花は、どれも五弁だから「好き」から始めれば、必ず「好き」で終わる。何が楽しいんだろう。
ひとり言が聞こえる。
「ずっと全部『好き』でいいんじゃない? 好き、好き、好き、好き、好き」
それはもう占いでもなんでもない。笑ったつもりのアンディの目頭が熱くなる。景色がぼやけるのはどうしてなのか。
今はこちらに気がつかないで欲しい、と思ったりした場合には、逆になるもの。
「アンディ」
振り返りながら立ち上がったクリスが名を呼び、しまったという顔をする。
アンディの胸がチクリと痛んだ。
「ごめんね。意地悪で二十日大根を食べさせたんじゃないの。嫌いだって知らなかったの、本当に。でも、ごめん」
謝る前に謝られて、アンディは慌てた。涙も引っ込む。
「こっちこそ、ごめん。すっぱいのが苦手なんて子供っぽくて言いたくないんだけど、嫌そうにしちゃったのは二十日大根じゃなくて酢なんだ」
「うん……」
勇気を振り絞っての告白にもかかわらず、クリスの反応は鈍い。
駆け寄って手を握った。
「クリスの二十日大根が食べたい。よかったら今度は生でかじらせて」
「……うん」
はにかんだ笑顔に、アンディはほっとした。
が、二十日大根で「いい話」をするために来たのだったか。
「アンディ、ごめんね。薪割りとか偉そうにして」
「クリスは悪くないよ。僕が――」
真剣な顔のクリスを見て、謝り合戦をやめようと思う。
「僕が疲れてたんだって。おっかさんがそう言ってた」
「アンディは頑張り屋さんだもんね」
率直な褒め言葉が、照れくさい。アンディは握っていた手を繋ぐ形に変えた。
「今日はもう働かなくていいって言われた。クリスとお昼寝してからフルーツケーキを食べなさいって」
「いいお仕事ね、アンディ」
手を繋いで並んで歩く。クリスの手はひとまわり小さくて優しいと思ったら、またぶわっと景色がぼやけた。




