女の子のためのケーキ・2
小さいのに悲しみに耐える様子が、クリスティナの胸に迫る。
こんなに素敵なものが目の前にあるのに、ちょっとのことで自分のものにならないなんて。幸福を逃した喪失感はどれほどのものか。
女の子の気持ちを思うと、クリスティナのほうが泣きそうになる。
「お歳はいくつ?」
思わず聞いていた。
突然の質問に女の子は驚いてまばたきをしながらも「七歳です」と答える。
こんなに丁寧に言えるなんて、とても良い子だ。
歳上として私も立派なふるまいをしなくちゃ。このケーキがどうしても食べたい、とか、今日までのケーキと聞いて本当に本当に惜しいとか思っちゃだめ。
「私やっぱり違うのにします。今から変えてもいいですか」
クリスティナが聞くと、係のお姉さんが「まさか」という顔をした。
「お嬢様がお先だったのですもの、譲らなくていいのよ」
クリスティナはちょっと笑ってそうじゃないのだという仕草をした。
泣き笑いみたいに見えないことを切に願う。
「クッキーも食べたいと思っていたから」
クリスティナが引かないことをお姉さんは理解したらしい。
「本当にいいの?」
大人に優しく聞かれると涙が出そうになる。そこをぐっと堪えて首を縦に振る。
なにが起こっているのか分からない女の子はきょとんとするだけだ。
「おすすめのクッキーを盛り合わせにしてお持ちしましょうか」
「ありがとうございます」
クリスティナはペコリとすると急ぎ足でワゴンを離れた。
「おかえりなさい。ティナちゃんのお気に召すお菓子はあった?」
テーブルに戻ると、我慢しきれなくなってとうとう涙が浮かんだ。
「どうかしたの? 売れてしまってお菓子がなかった? 」
フレイヤがクリスティナの頭を撫でながら顔を覗き込んだ。あまり見られたくないので、お姉さんの肩に頭を押しつけて顔を隠す。
「なんでもないの」
「なんでもないって……」
フレイヤが困惑している間にクッキーを載せたお皿が運ばれ、給仕がいきさつを説明する。
「歳下の子に譲ったの? 私なら欲しそうにされた瞬間、ケーキに指を突き刺して『これでもう私しか食べられませんよね』ってしちゃうわ」
考えもしなかったことを言う。本気だろうかと疑ってフレイヤを見ると、案外本気の顔をしていた。悪い大人がここにいる。
「だって早いもの勝ちでしょう」
真顔で続ける。
「私が諦めなきゃいけない日もあるわけだし、勝ち負けは時の運と言いますか。譲らない私からすると、ティナちゃんは信じられないくらい良い子よ」
頬を両手で挟んですりすりとされる。誉められた照れとくすぐったさが重なって「うふん」としてしまう。
こんなに誉められるなら、やっぱり女の子にケーキをあげて良かった。あの子が喜んでくれたなら私も嬉しい。
「決めたわ、季節ごとに来ましょうね。季節のケーキを制覇するのよ」
クリスティナを抱えたまま、フレイヤが宣言する。
「『制覇』は、大げさでは?」
「さ、ティナちゃん。まずはクッキーからよ」
レイの冷静な指摘は完全無視。フレイヤが口元に運んでくれたクッキーにかじりつきながら、クリスティナは可笑しくて仕方がなかった。




