女の子のためのケーキ・1
王都ってすごい。クリスティナ何度めかの「すごい」は、お菓子のたくさん乗ったワゴンの前だった。
「お選びになったお菓子は、テーブルまでお持ちします」
優しそうな係のお姉さんが「食べたいものを教えてね。クッキーはいかが」と言ってくれる。
丸いクッキーの上に赤いジャムでハート。同じクッキーに黄色のジャムで星。木の実を混ぜ込んだクッキー。それに動物の形のクッキー。
クッキーだけで何種類ある? 全部食べようと思ったら何度通えばいいんだろう。おいくらかかるんだろう。お金の問題じゃない、大人になったら毎日来よう。
クリスティナは抑えきれない興奮に震えながら決意した。
「ケーキはお好きですか」
はい、好きです! 勢いよく首を振った先には、小さくて可愛いケーキがこれまた何種類も。
「こちらは季節限定で、今日までのケーキなんですよ」
お姉さんの揃えた指先が示すのは、真っ白なハート形のケーキで、上にちょんと赤い花が載っている。
「わあ、きれい」
クリスティナが思わず口にすると、お姉さんが微笑する。
「この飾りのお花もお菓子でできていて、食べられるのよ」
「すごい!」
ケーキはどれも美味しそうだけれど、フレイヤお姉さんが見て喜びそうなのはこれ。
「このケーキをください!」
「かしこまりました」
選び終わったので、落ち着いてお菓子を眺められる。
「もう少し見ててもいいですか」
「もちろん、どうぞ。来週からは年越しを祝うお菓子も出るのよ」
年越しを祝うお菓子。聞いて思い出すのは、薄紙に包んでお花の小束のようにしたキャンディ、ウォードがくれたものだ。
甘いものは大好きだけれど、キャンディが特に好きになったのはあの日から。
ウォード、どうしてるかな。病気になってないといいけど。
「赤いお花のついたケーキをください」
「ごめんなさい。こちらはこれが最後のひとつだったの」
もの思いにふけっていたクリスティナは、その会話ではっとした。
胸当てのついた赤いスカートを着た女の子が、お皿に移されたケーキをを指している。クリスティナの選んだケーキだ。なんとあれが最後のひとつだったらしい。
クリスティナより少し歳下らしき女の子が「ショック」と「がっかり」に同時に襲われたのが、横にいてよく分かった。
ぐっとスカートを握るふくふくとした手。噛みしめられた唇、みるみるうちに赤くなる目尻。
クリスティナの目は女の子に釘付けになった。




