これからのこと・1
クリスティナの取った草は、とても役に立った。ラング様のお熱は飲んで三日でひいたらしい。
ルウェリン城で流行り病にかかった全員分には足りなくても、あれだけあれば揃って寝込むことにはならなくて済むというから、手が冷たいのを我慢したかいがあったというもの。
そんなこんなでクリスティナがお城を飛び出したのは薬草を手に入れるため、なんて美談にすり替わってしまった。
ラング様にも都合の良い話なのでそのままにしておくのだと、レイは言う。
迷っていた進路は、王立ナニースクールが有力。
クリスティナの将来の職業について、レイのお勧めはナニーではなく女家庭教師。
問題点をあげるなら、立場が雇用主側と使用人の中間にあたるのでとても気を遣うところ、とフレイヤお姉さんが教えてくれた。
ナニーになれば、フレイヤお姉さんに子供が生まれた時、お世話ができる。
それにフレイヤお姉さんのお友達は二人目、三人目を生むお年頃だ。ひとり目の時はナニー抜きで頑張っても、三人となると大変だから、ナニーを雇いたくなる。
そこを狙えば、お仕事がある。クリスティナが考えを述べると、お姉さんは「ほんと、ティナちゃんは賢いわね」と感心していた。
ジェシカ母さんの意見も聞かなくちゃ。したいことにダメとは言われない確信があっても「親には先に相談するものだ」と、レイが常識を教えてくれたので、手紙を出した。お返事が待ち遠しい。
「学校にもよるけれど、ナニースクールは確か十歳が新入生のお歳で、秋が入学式よ」
お茶を入れながらのフレイヤの説明を、テーブルセッティングを任されたクリスティナが聞く。
お茶を淹れるのも手順があり、一連の行程を流れるようにすると「おおっ」と思われ、周囲の方に敬意を持たれるらしい。
時間のある時でないとゆっくり練習できないからと、フレイヤお姉さんがお客様のもてなし方を日々教えてくれる。
時々、お客様役でレイが来る時も。その場合は午後のお茶ではなく、食後のお茶の扱いだ。
下流階級の子供がナニースクールに入るには、後見人がいる。
「その際には俺がなろう」と言うレイを止めたのはお姉さんだ。
「ルウェリン様は叙爵されてしばらく噂の的ですわ。それではティナちゃんが落ち着きません。私が後見人になるのはいかがでしょう」
ナニースクールの後見人とは保証人のようなもので、学校に損害を与えた時などに責任を持つ人。
「そんなことまでお願いするわけには」
「その程度のことですもの、構いませんわ」
淑女らしく上品に笑うお姉さんを見れば、勝負があったとわかる。言うまでもなく、勝者お姉さん。
さすが元男爵夫人。