差し伸べられた手・3
それなりに仕事をしている。忙しい時も暇な時もある。食うに困ってはいない、とウォードは自分のことを話した。
分かったような、分からないような。でもレイからオヤジの話を聞いても「ふうん」くらいにしか分からなかったから、聞いてもね。そう思うクリスティナがいる。
「実は困ってるんだ」なんて打ち明けられたとして、なにができるだろう。心配になるだけ。
むむむっと考え込んでいると、手をぐっと引かれた。
なに?
「俺の弱点が見つかったか?」
意味の分からないことを言う。小首を傾げると。
「さっきから、じろじろ見ているのは俺の弱みを探しているんだろう」
「そんなわけない」
見下ろすウォードの目の形で、からかっていると伝わる。
オヤジがするとイラッときちゃうのに、ウォードだと嫌じゃないのはどうしてだろう。
なにか、気の利いたことを言いたい。また私に会いに来てくれそうな、なにかを。
一生懸命に考えていると、音はしないのに少し先の繁みがカサリと動いた気がした。
おかしなことにウォードはまったく注意を払わない。理由は、すぐにわかった。
いたのは大きな狼、はうるちゃんだった。
クリスティナと目を合わせると、金眼をすいっと横に流す。
「レイが迎えに来るぜ」
流し目の方角には山荘がある。レイがもう山荘を出たなら、ここまでそんなに時間はかからない。
今日のお迎えはいらなかったのに。レイの親切を残念に思う私が残念な子か。
にゃーごちゃんは。気がついたらぴぃちゃんはお空を飛んでいる。こうなるとクリスティナにはにゃーごちゃんが見えない。
はうるちゃんとにゃーごちゃんがご挨拶をするところを見たかったのに。
色々思うようにならない。ため息と共に立ち止まる。ウォードの手を引っ張る形になり、ウォードも足を止める。
「どうかしたか」
「お家が近いの。だから……ここでいい」
うつむいてしまった。言いたくないことだから。
はうるちゃんが教えに来てくれたのは、レイとウォードは会わないほうがいいからだよね、きっと。
ご挨拶するにしても今じゃないってこと。
クリスティナの考えが伝わったように、はうるちゃんが笑った口で舌を出す。
「そうか」
ウォードが手を離そうとするからとっさに握りしめて離すまいとする。
「次! 次に会うときは、学校ね。頑張ってる私に会いに来て」
無言のまま見つめられてきまりが悪い。
「……なにか言って」




