差し伸べられた手・2
疲れてはいない。早く歩いたらお別れが早くきてしまうから、ゆっくり歩いていただけで。
手は繋ぎたい。でも繋ぐとお家に着くのが早くなっちゃう。
クリスティナの迷いに気がつくはずもないウォードは、聞き分けのない子にするように、雑にクリスティナの手を取った。
「もっと優しく」
「……」
お返事はないけれど、つなぎ直してくれたから良しとする。
歩く速度はゆったりとしたもの。クリスティナが疲れていると思って、合わせてくれているのだろう。
「今後は母親のところへ行くんだったか」
「うん、レイが連れて行ってくれるの。母さんと相談してからだけど、女の子の学校へ行こうと思って」
ウォードはクリスティナが男の子と間違えられて神学校へ入れられそうになった経緯を知っているので、話が早い。考えを聞きたくなった。
「ナニー養成学校はどう思う? 」
女の子の学校は服飾専門学校や家庭教師を輩出している学校、上級メイドを育てる専門学校などがあるらしい。
フレイヤお姉さんは都の人なので学校に詳しい。自身は広く浅く教養を身につける学校卒業したと教えてくれた。通称淑女予備校、お姉さんにぴったりだ。
そこは在学中に結婚する女の子もいる学校だそう。それは私にはちょっと合わないとクリスティナは思う。
「どう、と言われても」
「私、子供が好きだからいいかなって」
シンシア・アンは子供らしくて可愛かった。
ウォードが横目でクリスティナを見る。
「言うクリスも子供だと思うが」
そこはまあ、お兄さんのウォードから見ればそうだろうけれど。私は少し大きいもん。
「その学校ではどんなことを学ぶ」
「私もお姉さんに聞いただけだけど、お預かりしたお子さんを守る技術を身につけるんだって」
ウォードの口数が少ないのは、前にクリスティナが話して実母が子守りを仕事にしていたと知っているから。
母に憧れて同じ道に、と思ったのかもしれない。
「そうじゃなくて、ナニーは資格制でお給金もいいと教えてもらったから」とは言いづらい雰囲気になってしまった。
「王立ナニースクール」
ウォードの口にした校名に、そうその学校と、目を丸くするクリスティナ。
ウォードが淡々と告げる。
「俺の幼少時の世話係が、そこ出身だった」
「じゃあ、学校に遊びに来て」
風がウォードの髪を流した。額の前髪が浮きあがり、傷跡がよりはっきりと見える。
「どうして、そうなる」
「会いたいから?」
居場所が分かれば来られるもの。ナニーがついていたなんて、ウォードは思っていたよりお坊ちゃんかもしれない。
どこかにお坊ちゃんぽいところはないか、クリスティナは観察を始めた。




