差し伸べられた手・1
帰り道。草のために霰も入れた桶は重い。クリスティナではなくウォードが当然のように持った。
お腹に入れた分だけ背負う荷物は軽くなったのに、クリスティナの足取りは重い。
「もう一日泊まるかもしれないとレイには言ってきた」
「ルウェリン家には、すぐにでも薬草の欲しい事情があるんじゃないのか」
ラング様が寝込んでいると言わなかったのに、どうしてウォードが分かったのかが不思議。もう少し一緒にいられたらという願いは瞬時に潰えた。
「戻りが遅れたら叱責を受けるだろう」
「げんこつ? 」
「しっせき」って、なんだっけ。知っているような知らないような。
クリスティナが思いついた「げんこつ」をあててみると、ウォードがくるりと体ごと振り返った。
「ルウェリンで、体罰を受けているのか? 殴られて」
怖いくらい真剣な眼差しに「やってしまった」とクリスティナは察知した。どうやら叱責と拳骨は別のものらしい。
ごめん、ラング様、レイ。
「全然! そんなことない。しっせきが分からなかっただけ」
正直に告白して、睨むような凝視に耐える。ここで視線をそらしてはラング様とレイの名誉に関わる、クリスティナも必死だ。
「ほんと、ほんとなの。ほら、私の持ってきた食べ物に愛があったでしょ」
硬いパンはお口の中で血の味がしちゃうから、お姉さんが「ティナちゃんのお口が傷だらけになるのはダメ」と外側を食べて、柔らかいところだけを私にくれる。
クリームチーズは高級なのに、それも持たせてもらった。ウォードも一緒に食べたから、知っているはず。
「……愛が安い」
「安い高いがあるの?」
それは初耳だと思うクリスティナに、にゃーごちゃんの背中にぺちょりと座ったぴぃちゃんが「うんうん、ぴぃも知リませんでした」と同意してくれる。
にゃーごちゃんは、いつも賢そうな顔つきを崩さない。今もそう。お高い愛を知っているお猫様なのかもしれない。
ぴぃちゃんは羽があるから飛べばいいのに、にゃーごちゃんに運んでもらって楽をしている。でも可愛いから許す。
「腹がふくれればいいんだったな」
ウォードの表情が緩んだ。そのお顔好き、とクリスティナもつられて笑いそうになるけれど、失礼なことを言われていると気がつき、きりっとした顔を作る。
「ひどい」
「そうか?」
桶を持ち替えて、空けた右手が差し伸べられる。
意味が分からなくて静止するクリスティナに。
「疲れているんだろう、手を引いてやる」




