クリスティナ語り
男の子の学校へ女の子は入れない。それで兵隊さんがクリスティナの預かり先を見つけてくれた。一年置いてもらって、ルウェリン家へ移り半年お世話になった。
ルウェリンがなぜクリスティナを置いてくれたか。
「お姉さんは『男爵家として奥方を迎えるにあたり、生え抜きの侍女がいるべきだと思ったんじゃないかしら』って」
「そのいきなり出てきた『お姉さん』とは?」
クリスティナの持ってきたパンにウォードの持ってきたハムを乗せて食べながらのおしゃべりは、ウォードの質問が多々挟まれる。
とにかく先に進みたいクリスティナと疑問を解消したいウォードのせめぎ合いだ。
「美人さんで優しくて素敵なの」
「……そういうことじゃない」
お姉さんの優しげな眼差しとすっきりした鼻筋にうっとりしちゃうのは、私だけじゃない。
「ご当主様のお嫁さん候補なんだけど、今はレイが押せ押せになってるの」
はうるちゃんの表現を借りたのに、ウォードが微妙に嫌そうな表情をする。ということは、オヤジっぽい言い方なのだろうと察してクリスティナは笑って誤魔化すことにした。
「まさか、そのレイと言うのは……」
「ウォード知ってるの? ラング様のお兄さん」
ウォードが自分の額を親指の関節で軽く打つ。ちょっとカッコいいのでクリスティナもさりげなく真似をしてみる。
「名前くらいは」
「ふうん」
ルウェリン家は騎士四家のひとつ。ご長男ともあれば有名なのだろう。
ウォードはハートリー派だから、詳しいのも納得。
春といえども山は冷えると、ウォードがおこした火の側で並んでおしゃべりしている。
焚き火の向こうでは、丸くなるにゃーごちゃんにもたれて脚を伸ばしているぴぃちゃん。ぐてっとした姿が最高に可愛くて絵にしたい。
ぴぃちゃんがいるのは私がマクギリス派だから。レイの近くにはうるちゃんが来るのは、レイがルウェリン派だから。ということはにゃーごちゃんが一緒のウォードはハートリー派。
子供のクリスティナにも分かる。
「今はそのご長男に厄介になっていると」
「そうなの。レイは母さんのお友達で、母さんのところに連れて行ってくれるの」
ウォードがまた少し難しい顔になる。そうかなと思ったけれど、嘘はできるだけ少なくしたい。
クリスティナは息を詰めてウォードの顔色を窺った。
「腹を立ててはない。頭の整理がつかないだけだ」
「それ、私の説明が下手って言ってる?」
ちょっと心配すると、ウォードが可笑しそうにする。
「自覚はあるのか」
「ひどい」
火に照らされたウォードの顔には陰影がつき、昼間より傷跡がよく分かる。細くまっすぐに入った傷は、きっと剣によるものだ。
クリスティナがじっと見ているのに気がついたウォードが「どうした?」という風に眉を上げる。
「手をつないで寝よう」
クリスティナの提案に片頬だけで笑む。
「紐で縛らなくていいのか? 大きくなったから?」
毛糸の紐を手首に巻き付けて寝たことを覚えていたらしい。からかわれてクリスティナは真顔で言った。
「ここに紐がないだけ」
あれば結んだ。




