にゃんこちゃんにゃーごちゃん
ひとり言を言いながら仕事を言う者を好まないウォードのために、「黙って手を動かせ」と団員に注意するのはブレアだ。
ここにブレアがいたとしても、「ぴぃぴぃ」言いながら霰を素手でかき分けるクリスティナを黙らせようとは思わない。
静かにできないものかと思う反面、可愛いと感じてしまう自分がいる。
霰を踏むなときつく言い渡されたウォードは、少し離れた草地からクリスティナを眺めていた。
ここから見ても小さな手は赤い。凍傷にならなければいいが。
クリスティナが先に取ったという薬草は、根が長く伸びていた。その根に薬効があるので上だけ摘んでも意味がない、と言う。
薬一人前に薬草は何本必要なのだろうか。クリスティナひとりにさせるのは酷だが、乱獲を防ぐためでもある。
ルウェリン家所有の山でも騎士四家の取り決めにより、薬草は必要な分に限り採取してよいことになっている。
流行り病の噂を小耳に挟んだブレアが昔の流行を覚えていて、今も薬草があるかどうかを確かめたいとウォードの父に申し出た。
それで、他に仕事のあったブレアではなくウォードが来ての今だ。
クリスティナに聞きたいことは山ほどあるのだが、まずは仕事だと言われては、邪魔をするわけにもいかない。
野宿などと気楽に言っていたクリスティナの荷物は少ない。必要なものは全部持ってきたと自信たっぷりに見せてくれた中身は、ほぼ食べ物だった。
「着替えは?」
「近くから来たからいらない。半日で戻れるもん」
二日くらい同じ服でもどうってことないと、平然としたもの。とても女の子とは思えない。
「クリス、俺は泊まりの準備をする。戻るまでこの辺りにいろ」
「ありがとう! 私のも使いたかったら、どうぞ」
そうは言っても、食べ物しかないだろう。笑いたくなるのを堪える。
「おおっと、また見つけました! これでにゃーごちゃん、ぴぃちゃんより一本リードです。ここから巻き返してぴぃちゃんの逆転なるか」
クリスティナのひとり遊びだ、何を言っているんだか。少しも成長していないと思ったところで、ウォードははっとした。
猫の別名は「にゃんこちゃん」ではなく「にゃーごちゃん」だった。
いくらなんでも、にゃんこちゃんは恥ずかし過ぎるだろう……
誰にも言わなくてよかった。ウォードは赤面した。