クリスティナの回想・2
ひとりになるのが嫌でも、奥様には「はい」しか言ってはだめ。
「誰かに助けてもらう」ってどうするんだろう。
困り果てたクリスティナは、とぼとぼとたどり着いた階段で鳥を見つけた。
ハトやスズメは好きに出入りしているけれど、それはこれまで見たことのない白い綺麗な鳥だった。
大きなカラスくらいあって近寄りがたい。それにどこも白いのに羽の先だけ銀鼠色。ピンクだったらかわいいのにと残念に感じていると、瞬きの間にクリスティナの好きな桃色に変わった。
「すごい」
声が届いたのか、鳥は見せつけるように翼を広げた。
「それにお利口さん」
くちばしを天に向けるのは「そうでしょうそうでしょう」と言っているみたい。
「ね、ひとり? 私もひとりなの。一緒に行かない?」
誘ってから、わがままだったかと思い付け加える。
「……よかったら」
鳥が小首をかしげ、居た場所を譲る。
「そこに行っていい?」
だめと言われても行きたい。なので、聞くと同時に階段をおりる。
「クリスティナは五さい。あなたのお名前を教えてください」
クリスティナお決まりのご挨拶に鳥は賢そうな目つきをした。
鳥は話さない。でもおしゃべりはしたい。
お名前は「ぴぃちゃん」にした。なんとなく合わせて首をかしげてくれるから、分かってもらえた気持ちになる。
そこにお兄さんが来た。
暗くてお顔はあんまり見えなかったお兄さんは、助けに来てくれたのだ。
少し大きくなってから考えると、あれはエイベル様だったと思う。見た目と声を違う人のようにしてお城から脱出する前に、助けに来てくれたんだと思う。私のことを知らない人のふりをして。
逃げる途中のシンシアお嬢様とお母さんに会って頼まれたのだ。
その後、エイベル様も追いかけて一緒にいる。今もきっと。
迎えに来ないのは、オヤジとジェシカ母さんがいてなにも心配がないから。
どこも生活は大変で私まで食べさせることはできないんだろう。
みんな優しくて私は困っていないと、どうにかして伝えられないかな。
そう言うと、決まってジェシカ母さんはクリスティナをぎゅっとして。
「きっと皆様、穏やかにお暮らしだよ。どこかでクリスを見守ってる。でも住むところが違うから、きっと声をかけてはくれないね」
「どうして?」
「クリスが『一緒に行きたい』って言い出すと、絶対に行かせない母さんと喧嘩になるってご存知なのさ」
絶対に離さないし行かせない。母さんがきっぱりと言い、この話は終わりになる。




