恋のお話からのオヤジ狼・1
フレイヤお姉さんの好みは「誠実で嘘をつかない人」。理由は「人は自分にないものを求めるから」らしい。
「でも嘘をついているかどうかなんて、本人しか分からない」
クリスティナが思うそのままに言うと、フレイヤは困ったように笑った。
「そうね、言われてみれば」
「『誠実です』って言っても、それが嘘かもしれない」
「ティナちゃんは賢いわ」
誉められたのが嬉しくて、へにょっとなりそうなのをこらえて。
「お姉さん、もっと分かりやすい好みにしたほうがいいと思う」
頼まれない助言までした。
「じゃ、ティナちゃんはどんな人が好きなの?」
初めて受ける質問。急で思いつかないと頭をひねるクリスティナを見て、フレイヤは楽しげにしている。
「お腹が減ったときに食べ物をわけてくれて、困っていたら助けてくれる人。優しい人」
思いつくのはそんな感じ。クリスティナの摘んできた花を花瓶に形よく入れていきながら、フレイヤが微笑する。
「ティナちゃんは、自分と似たタイプを好きになるのね」
「?」
「それ、そのままティナちゃんよ」
そんないい人じゃないと思う気持ちは、顔に出たらしい。
「お菓子をわけてくれたでしょう。それにずっと私を助けてくれる」
「それはレイも同じでしょ」
柔らかな笑顔が素敵過ぎて照れちゃう。早口になった。
少し考えたフレイヤが流し目をくれる。
「どうしてレイさんが出てくるのかしら。さてはティナちゃん、買収されたわね?」
クリスティナはぶんぶんと頭を振って否定した。
気をつけないと、お姉さんとレイの恋の始まりを見てみたいなんて思っているのがバレちゃう。
「もう少し、お花持ってくるね」
「あら、ティナちゃん。まだお話の途中」
フレイヤが追いかけて来られないのをいいことに、クリスティナは部屋を飛び出した。
レイにお姉さんの好みを教えてあげようと思ったのに、狩りにでも出たのか姿が見当たらない。代わりにいたのは。
「はうるちゃん」
狼のはうるちゃんがまるで自宅のように大きな顔をして、長椅子に寝そべっている。
「ここにも、来られるんだね」
「レイがいるからな。ひょい、よ」
「ひょい、なんだ」
そんなに「ひょいひょい」来られたら、ぴぃちゃんの気が休まらない。それはちょっと困るなと思うけれど、嫌がると余計に来そうなので言うわけにもいかないのが、悩ましいところ。
クリスティナ、ここ座れ。脚を曲げてくれるので、仕方なく空いた場所へ座る。
「ラング様、どうしてる?」
「俺がなだめたし、べっぴんさんが『叔父が叙爵に力添えする』と書き置いたしで、機嫌よくしてる」




