新しい一日 山荘の朝
フレイヤより先にクリスティナの目が覚めた。部屋にあるのは、大きめの寝台がひとつ。一緒に寝るのは好き。
目を閉じているフレイヤを起こさないように、こっそりと部屋を出た。
一階に行ってみると、ダイニングテーブルには朝食が並んでいて、レイがコーヒーを飲みながら書きつけに目を通していた。
「おはよう」
「早いな、クリス。フレイヤさんの具合は?」
書きつけから目を離し、一番に尋ねるのはフレイヤのこと。
本当にお姉さんが気に入ったらしい。わかる分かるよ、お姉さん美人さんだもんね。
「まだ眠ってた。夜にお熱が出たから疲れたんじゃないかな」
夜中なんとなく目が覚めた時に、フレイヤお姉さんがくっついていた。クリスティナとしては嬉しいので、くっつき返したらぎゅっとされた。
寒くないのに歯をカタカタいわせていたから「これはお熱が上がるところ」と思って、後でお水を持ってきてあげようと思ったら……朝だった。
「レイも美人なら誰でもいいの?」
ダイニングの椅子に勝手に腰掛けながらクリスティナは聞いた。
レイが口に含んだコーヒーにむせる。
親分のはうるちゃんが「きれいなお姉さんはみんな好き」っぽいから、子分のレイもかと思ったのだ。
「クリス! 俺をオヤジと一緒にするな」
――オヤジ、そうなんだ。なのに結婚したのはジェシカ母さんなんだ。ふうん。
テーブルに両肘をついた上に顎をのせて、足をプラプラさせる。最高にお行儀の悪いことって、たまにしたくなる。
レイがコーヒーをテーブルに置き、書きつけをそれより遠くに置いた。
「フレイヤさんの好みは、どんなだ?」
「食べ物のこと?」
クリスティナは普通に返したのに、レイは焦れた顔をする。
「話の流れからして、異性の好みだってわかるだろう」
「そんなこと、私に聞く?」
「クリス以外に聞く相手がいないだろうが」
頼りにされたのがちょっと嬉しい。それにこういうお話、嫌いじゃないみたい。
うふうふとするクリスティナを見て、レイは嫌そうにする。
「聞くんじゃなかった。忘れてくれ」
言って取り消すのは、なしだ。
レイはジェシカ母さんが誉めるくらいの男で、お友達であるクリスティナからみてフレイヤお姉さんは素敵な人だ。
ここはひと肌脱ぎますか。とっておき情報を内緒で教えちゃう。
「お姉さんには私が話したって言わないでね。お歳は二十五でお若いのに、お姉さん、未亡人なんだって。これ聞くとレイも、たぎる?」
レイが瞠目した。あれ? はうるちゃんがすごく喜んで「たぎる、たぎる」と繰り返していたから「たぎる」って、いい言葉だと思っていたけど。
これは「子供が使っちゃダメな言葉」だったかも。叱られそうな気配が立ちのぼるから、その前に。
「お姉さん、起きたかも。ちょっと見てくるね!」
クリスティナは逃げ出した。