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熱に浮かされた夜・5

 ラング様にお兄さんがいた。名前はレイ・マードックで自称元山賊。今の職業は不明ながら、しばらく所有する山荘で暮らすつもりで帰郷したところ私達と知り合い、ご親切にしてくださった、と。



 三人組にお金を巻き上げられかけて助けてくれた時には、親切な方だと思いつつも「助けに入るところもやらせで、グルかもしれない」と、頭の片隅で疑った。



 罠を外してくれた時には、ありがたい気持ちと同時に「偶然の出会いが続きすぎでは?」と、不信感を抱いた……ほんの少しだけ。


 ルウェリン様のご兄弟と聞いて、うっすらとした感じていた疑惑が晴れた。

 言われて見れば、高い頬骨やしっかりとした顎の骨格など、おふたりよく似ている。



 ルウェリン家と知って安心するなんて私も変わったものよね。なんて思考を巡らせていると、頬にひやりとしたものがあたった。



「ふひゃ」


 妙な声を上げつつ払おうとしたところで、濡らした布だと気がつく。


「汗を拭きたいと言われたでしょう」


 ぼんやりとした明かりに、レイのもう片方の手にある濡れ布巾が浮かび上がった。


「気持ちいい」


 濡れ布巾の触れたところから、汗がひくようだ。顔全体に押し当て離すと、しめった肌に部屋の空気が冷えて感じられる。



「背中を向けてください」


 言われて背中を向けると、ブラウスの下にレイの手が侵入した。驚きで硬直したと分かったはずなのに、手早に背中を拭いていく。



「レイさんっ」

「背中の中心は自分では思うように拭けないでしょう」


なんでもないように言われるのが、悔しい。


「だからって!」

「仲間と浴場で一緒になるとこうするもんですよ。女性同士ではしませんか」


 するもなにも浴場で一緒になるシチュエーションが思いつかない。


「いきなりそんな。じ、事前に聞いてくださいませんと」


 声がうわずって動揺がまるわかり。私だけ、みっともないほどうろたえているなんて。


 笑いをこらえる気配がする。たいして広くもない背中を拭き終わり、ぬるくなった布巾を平然と畳みなおしているレイが、しゃくにさわる。


「聞いたら、断るに決まってる」

「そ、それは」


 おっしゃる通りです。でも背中はさっぱりとして気持ちがいい。「あのままだとアセモができそうで気になってた」などと思っているフレイヤに、本気で苦情を申し立てることなどできない。



「明日からも拭いて差し上げますよ」

「結構です! ティナちゃんにお願いしますからっ」

「それは残念」


 フレイヤの手から濡れ布巾を回収しつつ、顔をのぞき込むようにする。

 

「せめて、あなたを運ぶ役目は俺にさせてくださいね」


 ラング様は私に全く興味を示さなかったのに、このお兄様は。

赤くなっているだろう耳に気づかれたくない。フレイヤは濡れ布巾をあてて熱い耳を隠した。


 

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