熱に浮かされた夜・4
世間は狭い、同じ言葉を返されて戸惑う。
「ルウェリンでの滞在は快適なものでしたか。ばかに大きいのに人手が足りないから、すべてにおいて行き届かない」
「戸惑い」が強まると何になる? 「困惑」は適当だろうか。なぜルウェリン様のお城の話が突然始まったのか、フレイヤには見当もつかない。
「由緒あるお城を、築城当時のままに維持しようとお努めになるのは、大変ご立派なことですわ」
設備が前時代的だとか、外から見たところ窓に板戸すらない部屋が数多くあるのを婉曲に申し上げると、こうなる。
「ものは言いよう」
「まあ、なんて紳士にあるまじき率直なおっしゃりようなのかしら」
やんわりと諫めれば、紳士ではないレイは朗らかに笑う。
私達がルウェリン城にいたのはティナちゃんが話したのだろうが、それにしても。
「早く話さないと、クリスが『内緒話だ』と打ち明けてしまうかもしれないので。俺の名はレイ・マードック・ルウェリン。ラング・ルウェリンの兄です」
なんですって! 驚いた拍子にフレイヤは立ちあがってしまった。
「え!? ああああっ」
「え」は驚き、後の「あ」は痛みだ。脈は左足甲で打っているのではないかと思うほど、ドクドクと痛い。
「なにをやって――、ん、大丈夫ですか」
呆れを誤魔化して後半を心配に変えたつもりでしょうけれど、前半もちゃんと聞いていましたから。
「びっくりさせたあなたが悪いわ」
痛みに涙目になりながら恨みごと言う。
「すみません。そんなに驚くとは思わなくて」
それはそれは丁寧な手つきでソファーに戻るのを手伝いながら謝ってくる。
「子供の頃から『兄弟顔が似ている』と言われて育ったんですが」
「ちらっとかすめましたけれど、この地方の、地元の特徴かと思っていました」
「地元の……特徴」
言われ方がお気に召さなかったらしい様子が面白くて、少しだけやり返した気分になった。
順に聞けば「ふと思いたって久しぶりに実家に寄ったら、到着が夜になった。石塀の勝手口は年中開けっぱなしで鍵がないのでそこから入り、かつての自室で寝て朝になってから弟に帰宅の挨拶するつもりが、空腹を満たそうと厨房を漁っていたところ、不審者と間違えられ、大騒ぎになった。俺の顔を知らない使用人が増えていまして」と説明された。
くだらない、あまりにくだらない。そんなことで騒ぎになっていただなんて。
足だけでなく頭まで痛くなってきた、とフレイヤは額に指を添えた。




