熱に浮かされた夜・3
さて、なにを話題にすればいいのか。
それなりに渡り歩いてきた社交界では当たり障りのない会話が常で、フレイヤには慣れたこと。
しかし離れている間に鈍くなったらしく、会話の糸口さえ思いつかない。
幸いにもロウソクしかない部屋は暗く、お互いの表情は雰囲気程度に伝わるだけ。沈黙もまた夜に似合いだといえる、多少強引ではあるが。
「体が熱かった。熱がありますね」
「ええ。でも下がってきました」
震えるほど寒く感じた熱の上がる間はティナちゃんにくっついてやり過ごした。今は平熱に近いと思う。
「明日にでも医者を呼びましょう」
ご親切はありがたいものの、医者に診てもらっても、足の甲にする治療などないような気がする。
痛み止めを飲んだからといって治りの早さは変わらない。診察してらっても同じことと、彼も分かっているはず。
「それには及びませんわ。そう言えば、ティナちゃんのお母さんとお知り合いと聞きましたが、本当ですか」
遠回しに尋ねるつもりが、驚くほど直接的になった。自分でも「あっ、しまった」と思ったけれど、もう遅い。
社交界をうまく泳いだのは記憶違いで溺れていたんだったか、と疑いたくなる。
「クリスの母だけでなく父親も知っています。俺は父親の下で働いていましたから」
「そうでしたの」
それは、つまりレイさんも山賊ということかしら。山賊ではなく山族、山で生活する一族という意味かもしれない。
本当に山賊なら下手に詳しく聞いて「知られたからには生かしておけない」などとなっては、大変だ。これ以上の追求は止めようと、フレイヤは決めた。
「クリスの親と俺が知り合いなのは、でまかせだと思いましたか」
「ごめんなさい、そういうわけではなく。優しい嘘かと思いましたの」
「――優しい嘘?」
言葉の補足を促す気配がある。
「ティナちゃんが先を焦らないよう、ご配慮くださったのかと思いました」
私達が山荘にいる間に、母親の居場所について調べてくれようと考えてのことかと思っていた。
「世間は狭いと言いますけれど、本当にそうですね」
まさか彼がクリスティナの父親のもとで働いていたとは、考えもしなかった。いらぬ邪推を申し訳なく思う。
「世間は狭い。俺も今日似たようなことを思いました」