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熱に浮かされた夜・1

 砂嵐なるものを実際に見たことはないけれど、これは砂嵐。

熱が出た時に必ずみる夢だ。


 フレイヤは砂嵐のなかでクリスティナを探していた。早く、早く見つけないと砂に埋もれてしまう。ティナちゃんを助けるためでもあり、自分が助かるためでもある。



 いつもはひとりで埋まるだけの砂嵐の夢にクリスティナを持ち込んだのは、寝る前の会話のせい。



「敵が攻めてきて逃げることになったら」と聞かれて「逃げられる気がしないから、ここにいたほうがいいと自分に言い聞かせて留まる」と答えようかと思った。



 瞳の色を深めて身動ぎせずに待つ女の子を前にしていると、その答えは誤りだと感じた。

 そんな事態に遭遇することはないだろうが、進退に迷うことがクリスティナにあったとして頭の隅に残っていた意見を取り入れてしまったら。考えるだけでぞっとする。



「ティナちゃんと逃げるわ。野性の勘がないと私ひとりでは逃げられる気がしないもの」


クリスティナの見せた微笑はどこか大人びたものだった。


「私が小さかったら? 」

「赤ちゃんとか? それはすごく可愛いわね。連れて出るのに足手まといと言う人はいるでしょうけど、私は絶対に一緒に行く」


 もの言いたげな顔は、求める答えが違ったせいかもしれれない。



「人として守るべきとか、そういう高尚な考えじゃなくてね。置き去りにして、私がその後とても不幸になればいいけれど、普通の暮らしを送れたとしたら『あの時』の自分を許せなくて、後悔し続けると思うの。という、とても利己的な理由です」

「りこてき」


 利己的が難しかったらしい。「利己的ってなに」と聞かれても、フレイヤには説明する自信がないと伝わったのか、クリスティナはそれ以上聞いて来なかった。




 砂に足を取られて前に進めない。息苦しい。もがいているうちに、目が覚めた。


 目覚めると暴れていた形跡がないのもお決まり。

砂嵐から抜け出せてよかったと心から安堵するのに、体が重い。窓からの星あかりで理由が分かった。


 並んで寝たはずのクリスティナが、フレイヤのお腹を枕にしている。

それは体が思うように動かないわけだと、可笑しくなる。



 熱が下がってきているようで、体が汗ばんでいた。首に張りついた髪を持ち上げ空気を通す。


 水も飲んだほうがいいかもしれない。水差しを用意しなかったから、一階まで降りる必要がある。


 面倒なのと渇きとを天秤にかけ、朝まで我慢するのは嫌だと、水を飲みにいくことにした。



 眠りを妨げないようクリスティナの頭を慎重によけ、寝台をそろりと降りる。左足を床についた途端、あまりの痛みにフレイヤは腰が砕けたように床にうずくまった。


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